賃貸物件に入居していた人が退去する際、オーナーや不動産管理会社、借主が立会って部屋の確認や鍵の返却などを行います。退去時は原状回復などを巡ってトラブルに発展することも少なくありません。そのため、立会いの際には事前にどのようなことをするべきなのか、どのような流れで進めていくのかを把握しておくが大切です。
そこで今回は、賃貸物件の退去時に必要な立会いの流れ、準備しておくべきことなどをご紹介します。また、退去時の立会いを円滑に進められるよう、トラブルを回避するためのポイントも解説しているので、ぜひ参考にしてください。
退去時の立会いは原則必要
入居者が退去をする際には、オーナーや不動産管理会社による立会いが原則必要です。ここでは、立会いが必要な理由や、借主側の立会いが難しい場合の対処法をご紹介します。
なぜ退去時の立会いは必要なのか?
退去時に立会いが必要となるのは、修繕が必要な箇所の費用負担が誰なのかを決めるためです。退去時は家具や家電を外に運び出した状態となるため、部屋の中がどのような状況になっているのかをチェックできます。その際、床や壁などに傷・汚れがあった場合は、原状回復が必要かどうかを判断する必要があります。
入居前からあった傷や汚れ、経年劣化などは、通常使用の範囲内であればオーナーが費用を負担します。しかし、そうでない場合は費用負担は借主側になります。これらの判断を貸主側で勝手に判断すると、退去者との間に認識のズレが生じ、トラブルに発展する可能性が高まります。こうしたトラブルを回避するために、退去当日に借主に立会ってもらい、部屋の状況をチェックする必要があります。
借主側の立会いが難しい場合は代理人を立ててもらう
借主側の都合で立会いが難しい場合は、代理人を立ててもらいます。代理人はできるだけ契約時の状況などがわかる人が望ましいです。また、委任状が必要になりますので、その旨事前に説明しておくようにしましょう。
ただ、代理人を立てたとしても、入居時からあった傷かどうかを判断することは難しいです。後々代理人や借主と揉めないためにも、できるだけ借主本人に立会ってもらえるよう、スケジュールを調整してもらうようにしましょう。
代理人を立てることが難しい場合は、修繕方法や精算について退去日までに借主側と十分に話し合っておくことが大切です。
オーナー・不動産管理会社が退去時の立会いでやるべきこと
オーナーおよび不動産管理会社が退去時の立会いで確認すべきポイントは以下のとおりです。
- 修繕が必要な箇所の確認
- 忘れ物・残置物の確認
- 水道・電気・ガス・ネット回線の確認
- 連絡先と入居時の感想・退去理由の確認
- 鍵の受け取り
忘れ物・残置物の確認
退去時の立会い時には、忘れ物や残置物がないかを確認します。
残置物は、オーナーから了承を得ない限りそのまま残しておくことは基本的にできません。その場合、処分費用は原状回復費として借主に請求できます。
水道・電気・ガス・ネット回線の確認
水道や電気、ガス、ネット回線などのインフラの停止手続きが行われているかも確認することが必要です。
インフラによっては停止手続きを行うために借主の立会いが必要なケースもあります。退去立会いまでに手続きを完了しておくよう、事前に告知しておくことが大切です。
連絡先と退去理由の確認
退去後、原状回復や敷金精算を行うためには借主の連絡先も確認しておきます。電話番号などの連絡先を控えていることは通常ですが、退去した後に連絡先が変更となる可能性もあるでしょう。そのため、念のため確認しておくことが大切です。
このとき、退去する理由、物件管理状況についての感想なども確認しておくと、空室対策として活用できる情報が手に入るかもしれません。例えば、「宅配ボックスがあると良かった」などの要望があった場合、他の入居者もそのように考えている可能性があります。また、「近隣からの騒音が気になった」などのトラブルが原因で退去する場合は、他の入居者も困っている可能性があるため、聞き取り調査を行い対処する必要があります。
鍵の受け取り
上記確認がすべて完了したら借主から鍵を返却してもらい、立会いは終了です。鍵の回収を忘れると、新しい鍵への交換が完了するまでは、元借主がオートロックを通過できる状態のままとなってしまいます。防犯上のリスクが高まる恐れがありますので注意しましょう。借主によっては鍵を複製している場合もあるため、それらもあわせて確認し、その分もきちんと回収するようにします。また、借主が鍵を紛失・破損していた場合は、オーナーへの報告が必要です。
退去時の立会いで発生しやすいトラブル
退去時の立会いでは思わぬトラブルが発生してしまうこともあります。特に気を付けたいのは、以下のようなものです。
- 原状回復費用に関するトラブル
- 特約に関するトラブル
原状回復費用に関するトラブル
部屋の中に明らかに特別損耗(通常の使用による経年劣化ではなく、借主の故意または過失によって生じた損傷や汚れ)による傷・汚れがあった場合、修繕費用は借主側が負担することになります。しかし、借主側が「この傷は前からあった」「故意に付けたものではない」などと支払いを拒否するケースもあります。このようなトラブルに発展してしまった場合、借主に対して原状回復のガイドラインに基づき、請求している旨を丁寧に説明することが大切です。
また、賃貸管理システムなど便利なツールを活用することで、原状回復費用に関するトラブルなどを未然に防げる可能性が高まります。賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』なら、前回の原状回復工事後の対応履歴を写真で記録しておけるため、借主側との認識の齟齬を防ぐことができます。また、賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』なら、契約管理から家賃管理、修繕管理まで、賃貸物件に関するさまざまなデータをクラウド上で保存することが可能です。
不動産オーナーアプリ『いい生活Owner』は、原状回復工事の見積もり・完了後の写真などを、郵送コストをかけずにオーナーへ送付することが可能です。オーナーとのやり取りがしやすくなるため、管理会社の業務効率化に加えオーナー側も利便性の向上につながります。
特約に関するトラブル
賃貸借契約書に記載されている特約について、退去時にトラブルが発生することがあります。特に多いのが、退去時のハウスクリーニング費用に関する問題です。契約書に「ハウスクリーニング費用は借主負担」と記載されていても、借主がその内容を十分に理解していないため、退去時に費用負担に対する不満やクレームが生じるケースがあります。
特約は契約書に明記されているため、内容を確認しなかった借主には一定の責任があります。そのため、原則として契約書に記載されている時点で、貸主や不動産管理会社が有利な立場と言えます。しかし、それでもトラブルに発展してしまうと、対応に時間がかかる可能性があります。こうしたトラブルを避けるためには、契約時に特約の内容を丁寧に説明し、借主にしっかりと理解してもらうことが重要です。
退去が決まってから立会い完了までの流れ
ここでは、退去が決まってから立会い完了までの流れについてご紹介します。
- 立会いを行う日程を決める
- 借主が荷物を運び出す
- 大家と管理会社の担当者で確認する
- 立会いに関する書類にサインをしてもらう
- 鍵を返却してもらう
1.立会いを行う日程を決める
借主から解約する旨の電話を受け、解約通知書が届いたら退去日をいつにするかを決めます。できるだけ借主本人が立会えるスケジュールで退去日を調整するようにしましょう。
他にも、立会い当日の流れや必要な持ち物、準備しておくべきことのリストなどの書類を作成しておきましょう。まとめて事前に郵送しておくことで立会い当日はスムーズに部屋の確認などを行えるはずです。
2.借主が荷物を運び出す
退去日が決まったら、立会い当日までに借主側で荷物を運び出しておいてもらうようにしましょう。ただし、引っ越し先や引っ越し業者の繁忙期などが影響し、立会い当日に搬出作業を進めなければならないといったケースもあります。その場合は、荷物の運び出しを優先してもらい、完了後に立会いを行うことになります。
立会い当日に荷物が残っている場合、その日に作業が終わらないと部屋の状態をチェックできないため、再度立会いを行う必要があります。その場合、解約日に解約できない可能性もあり、借主には延長分の家賃も支払ってもらう必要が生じます。
3.オーナーと管理会社の担当者で確認する
荷物がすべて運び出されたら、オーナーと管理会社の担当者で室内を確認します。上記の確認事項を中心に、細かいところまでチェックするようにしましょう。
確認する際にはチェックリストを用意しておくと便利です。また、入居時に撮影した写真があれば、その写真と見比べながら確認を行うとスムーズです。
4.立会いに関する書類にサインをしてもらう
部屋の確認がすべて完了したら、次に補修や敷金について借主と話し合いを行います。どれ程度の補修が必要か、敷金を戻すのか、負担割合はどれくらいになるのかなどを確認していきましょう。
話し合いが完了したら補修内容や支払いに関する書類にサインをしてもらいます。同意書にサインをせず原状回復を行ってしまうと、後で借主から「同意していない」ということで支払いを拒否されてしまう可能性もあります。
また、話し合いの際にはスマホやボイスレコーダーなどで音声を録音しておくと安心です。ただし、必ず事前に「記録のために会話を録音させてほしい」と断りを入れてから録音するようにしましょう。
5.鍵を返却してもらう
サインが完了したら、電気のブレーカーを落とし、借主から鍵を返却してもらいます。借主が当日立会いに参加できなかった場合や、立会いそのものがなかった場合は、管理会社まで鍵を返却するように伝えます。玄関のスペアキー以外にも郵便受けや共用部を利用するための鍵も返却されたかどうかをしっかりと確認するようにしましょう。これらがすべて完了したら立会いに必要な作業は終了となります。
退去時の立会いにかかる時間はどれくらい?
退去時の立会いにかかる時間が気になるという方も多いでしょう。退去する物件によっても異なりますが、約30分~1時間程度が一般的です。
立会いを行う時間帯は日中のケースが多いです。立会いは、照明が外されている状態で行うため、遅い時間帯に実施すると、傷や汚れなどを見逃してしまう可能性があります。室内の状態をきっちり確認するためにも、立会いはできるだけ日中の明るい時間帯に行った方が良いでしょう。
退去時のトラブルを回避するための注意点
退去時には、原状回復費用などを巡って借主とトラブルに発展するケースも少なくありません。できるだけトラブルを回避するためにも、以下のポイントを押さえておくようにしましょう。
- 「敷金精算の合意書」を作成しておく
- 部屋を撮影しておく
「敷金精算の合意書」を作成しておく
敷金精算の合意書を作成しておけば、トラブル回避にもつながりやすいです。口頭だけで済ませてしまうと、退去時に言った・言わないのトラブルになる可能性もあります。そういったことを防ぐためにも、敷金精算の合意書には、預かり敷金や返還日割り賃料の金額、差し引き返金額、原状回復における借主が負担する分の金額などを記載しておきましょう。
部屋を撮影しておく
入居前の室内を撮影しておくと、退去時の傷や汚れが入居前からあったものなのかどうかを判断しやすくなります。
撮影した写真は、物件ごとに分けてファイルにまとめて保存しておきますその際、撮影日時がわかるようにしておくと、当該箇所の傷や汚れが経年劣化によるものかどうかが見極めやすくなります。また、写真では状態を正確に映し出すのが難しいケースもあるため、動画もあわせて撮影して保存しておくのもおすすめです。
原状回復費用を支払ってもらえない場合の対処法
原状回復のガイドラインに則って借主側に修繕費用を請求したにもかかわらず、支払ってもらえないケースもあります。そういった場合、まずは通常の郵便や電話で連絡し、支払うよう通知しましょう。それでも支払ってもらえない場合には、内容証明郵便で請求します。
なお、場合によっては調停・訴訟を提起する可能性もあることから、事前に弁護士に相談しておくと安心です。
立会い完了後に修繕が必要な箇所が見つかったら?
借主との立会いが終わった後、原状回復工事を行う前に立会いでは気づかなかった修繕が必要な箇所が見つかることがあります。しかし、立会い時点で修繕費や敷金についての合意が済んでいる場合、新たな費用を借主に請求するのは難しいのが現実です。
こうした問題を避けるためには、立会いの際にできるだけ詳細に確認することが大切です。立会い前に修繕が必要になりそうな箇所を予測し、確認リストを作成するなど、事前に入念な準備を行うことで修繕漏れのリスクを減らせます。また、立会い時には、写真を撮るなどして記録を残し、証拠として保管しておくと安心です。最終的には、立会いの段階で借主としっかり合意を取るようにしましょう。
退去時の立会いでトラブルを回避するために事前準備も大切!
今回は、退去時の立会いについてご紹介してきました。賃貸物件で借主が退去する場合、オーナーや不動産管理会社による立会いが必要です。立会い時にはトラブルに発展するケースもあることから、入居の段階から事前準備を行っておくことが重要です。
また、退去時の立会いでトラブルを回避する際に、事前に撮影した写真が役立つ場面も多いです。物件の写真データはもちろん、賃貸管理に関するさまざまなデータを保存・管理しておけるクラウドシステムを用意しておくと便利でしょう。賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』や不動産オーナーアプリ『いい生活Owner』も含め、不動産管理におけるあらゆる業務を一元管理したい方は、ぜひ『いい生活のクラウドSaaS』を活用してみてください。