不動産会社が賃貸物件を仲介した場合、「仲介手数料」が発生します。仲介手数料は、不動産会社が営業活動や手続きの代行などを行った報酬で、請求できる金額の上限は法律で定められています。また、その仕組みや支払うタイミングなど、仲介業者として賃貸契約に携わる際には把握しておくべきポイントは少なくありません。
そこで今回は、仲介手数料の必要性や計算方法、さらに仲介手数料無料の不動産会社が存在する理由などについて解説します。不動産の賃貸仲介で起業する予定の方は、ぜひ参考にしてみてください。
賃貸における仲介手数料の必要性と仕組み
賃貸仲介を行う不動産会社にとって、仲介手数料は大切な収入源の1つです。不動産会社が入居希望者に物件を紹介し、その物件で契約が成立した際に手数料が発生しますが、契約に至らなければ手数料は発生しません。
仲介手数料は通常、貸主と借主の双方で負担することが原則とされており、不動産会社が契約をサポートするための費用となります。また、宅地建物取引業法に基づき、不動産会社がどちらか一方から受け取れる金額には上限が定められています。この仕組みにより、適正な範囲での料金が維持されています。
支払われるタイミングは賃貸借契約の締結後が原則
賃貸仲介業務は、主に物件の案内から契約交渉、重要事項説明、賃貸借契約の締結といった流れで進みます。仲介手数料が支払われるタイミングは、賃貸借契約が完了した後です。
貸主や不動産管理会社側の指定によって契約締結前に入金するケースもありますが、契約がキャンセルになった場合は返金となります。また、支払いは契約締結後の1回だけです。仲介手数料は賃料とは異なり、毎月のように支払うことはありません。
仲介手数料に共益費・管理費は含まれない
仲介手数料は賃料に基づいて決まっており、共益費・管理費や駐車場代は含まれません。例えば、賃料が10万円、管理費が1万円、駐車場代が5,000円の物件で、仲介手数料が賃料の1カ月分であれば、手数料は10万円となります。
共益費や管理費などを含めて仲介手数料を計算するのは法律違反になる場合もあるため、安心です。また、部屋と駐車場は別契約になることが多いため、部屋の仲介手数料はあくまで部屋だけの分です。駐車場の仲介手数料が必要な場合も、部屋と別々の手数料設定となり、わかりやすく、無駄な費用がかからないようにされています。
賃貸の仲介手数料の上限は法律で定められている
賃貸の仲介手数料は宅地建物取引業法によって上限が定められています。ここでは仲介手数料の上限についてご紹介します。
上限は「賃料1カ月分+消費税」
宅地建物取引業法により、賃貸物件の仲介手数料は「賃料1カ月分+消費税」が上限とされています。例えば、賃料10万円の物件であれば、仲介手数料は消費税10%を含めて11万円となります。
さらに、仲介手数料は貸主か借主のいずれかの承諾があれば、一方にのみ全額請求することが可能です。そのため、例えば貸主が手数料を全額負担すれば、借主は仲介手数料なしで入居が可能です。
貸主・借主の両方から仲介手数料を受け取る場合は「賃料0.5カ月分+消費税」が上限
仲介手数料を貸主と借主の両方からいただく場合、「賃料1カ月分」ではなく、各0.5カ月分(+消費税)ずつの負担で済みます。そのため、合計では賃料1カ月分に相当しますが、入居希望者様にとっては、賃料1カ月分の全額を負担するよりもリーズナブルに感じられるでしょう。双方が半分ずつの負担となるため、入居者はよりお得に新生活をスタートできます。
長期間空き家となっている物件は、特例によって上限が変更される
2024年7月の改正により、長期間空き家となっている物件の賃貸契約では、仲介手数料の上限が「賃料の2カ月分+消費税」となりました。この特例により、貸主と借主の双方から手数料を受け取る場合でも、合計で賃料2カ月分が上限となります。
さらに、この上限は貸主が1.5か月分、借主が0.5か月分と明確に分かれており、借主が負担する手数料は通常と変わらず0.5か月分に抑えられています。このように、空き家物件に関しては、貸主と借主の負担が分担され、借主にとってもお得な仕組みとなっています。
賃貸の仲介手数料の計算方法とシミュレーション
仲介手数料は「賃料1カ月分(または0.5カ月分)×消費税分1.1(10%の場合)」で求められます。以下の表は、賃料別の仲介手数料を1カ月分と0.5カ月分でそれぞれまとめたものです。
賃料 | 仲介手数料+消費税(10%) | |
0.5カ月分 | 1カ月分 | |
5万円 | 27,500円 | 55,000円 |
6万円 | 33,000円 | 66,000円 |
7万円 | 38,500円 | 77,000円 |
8万円 | 44,000円 | 88,000円 |
10万円 | 55,000円 | 110,000円 |
12万円 | 66,000円 | 132,000円 |
15万円 | 82,500円 | 165,000円 |
18万円 | 99,000円 | 198,000円 |
20万円 | 110,000円 | 220,000円 |
仲介手数料無料の不動産会社が存在する理由
仲介手数料は、法律によって上限が定められていますが、下限は定められていないため無料にすることも可能です。実際、不動産仲介会社の中には「仲介手数料無料」を謳っているところもあります。貴重な収入源であるはずの仲介手数料をなぜ無料にできるのでしょうか?その理由として挙げられるのは、以下の3つです。
- 不動産会社の管理物件を紹介している
- 大家さんや管理会社から報酬を受け取っている
- 大家さんの早く入居者を見つけたいという要望を叶えるため
それぞれの理由について解説します。
不動産会社の管理物件を紹介している
不動産会社が管理する物件には、さまざまな収益源がある場合があります。例えば、自社で所有する物件や大家さんから管理を委託されている物件に対しては、管理業務に対する収益が発生することが多く、安定した収入が期待できます。そのため、これらの物件では仲介手数料を無料または安く設定できる場合があり、入居希望者にとっても負担を軽減しやすい仕組みとなっています。
ただし、不動産会社がすべての物件を自社で管理しているわけではなく、管理業務を専門の外部会社に委託しているケースもあります。この場合、管理収益がないため、仲介手数料が通常よりも高くなることがあります。しかし、空室が長く続く物件については、早期の入居を促進するために、特別に手数料を割引していることもあります。
大家さんや管理会社から報酬を受け取っている
物件によっては、大家さんや管理会社からのサポートにより、仲介手数料を無料にできる場合があります。これは、大家さんや管理会社が「早く入居者を見つけたい」と考え、賃料の0.5~2カ月分を広告費として不動産会社に支払っている場合です。
ただし、すべての物件で広告費が発生するわけではありません。貸主から広告費が支払われる許可が出ている物件に限られます。
賃貸の仲介手数料の値引き検討すべきケース
借主にとっては、初期費用を抑えたいという理由から、仲介手数料の値引きを希望する場合があります。しかし、状況によっては必ずしも値引きに応じる必要がない場合もあります。以下に、値引き交渉に応じることを検討すべきケースをご紹介します。
- 貸主から広告料を受け取っている時
- 閑散期で集客に苦戦している時
- 独自の賃貸物件を紹介している場合
- 顧客の態度が良好である場合
貸主から広告料を受け取っている時
貸主から広告料が支払われている場合、不動産会社は仲介手数料を値引きしても利益を確保できます。しかし、広告料が支払われない場合、値引き交渉に応じると十分な利益を確保できないため、交渉を断ることが多くなります。
広告料とは、賃貸借契約が成立した際に貸主から不動産会社に支払われるもので、貸主と不動産会社が媒介契約を結んでいる際に設定されることが一般的です。
閑散期で集客に苦戦している時
繁忙期には、仲介手数料を下げなくても入居希望者が多く、契約もスムーズに進むことが一般的です。値引き交渉をする人よりも、交渉せずに契約に進む入居希望者が優先され、不動産会社にとって効率的で利益が見込めるため、繁忙期には値引き交渉に応じないことが多く見られます。
しかし、閑散期となる7〜8月や11〜12月には入居希望者が減少し、成約が難しくなる傾向があります。この時期に少しでも多くの入居者を確保するには、柔軟な対応が求められます。例えば、値引き交渉に応じたり、キャンペーンなどの特典を提供したりすることで成約率を上げる効果が期待できます。
独自の賃貸物件を紹介している場合
不動産会社が独自に管理している賃貸物件や、他社では扱っていない物件を紹介する場合、仲介手数料の値引き交渉に応じることで、成約の可能性を高められる可能性があります。
「独自物件」の強みは、空室状況や条件に対して柔軟に対応できる点にあります。また、他の不動産会社では扱っていないため、差別化された物件として提案でき、入居希望者にとっても魅力的です。このような状況では、多少の手数料を値引きしても成約率を上げることで、物件の空室リスクを軽減することが可能です。
不動産会社としても、特定の物件が長期間空室になるのを防ぎ、管理コストを削減するために、顧客にとって魅力的な条件で成約を目指すことが重要な戦略となります。
顧客の態度が良好である場合
顧客が誠実で良好な態度を示している場合、不動産会社としても仲介手数料の値引き交渉に柔軟に応じることが効果的です。信頼関係が築ける顧客とは、契約もスムーズに進みやすく、トラブルも起きにくいため、不動産会社としても良い印象を持ちやすくなります。
また、良好な態度を持つ顧客はリピーターになりやすく、将来的には紹介を通じて新たな顧客をもたらす可能性もあります。こうした長期的なメリットを考慮すると、値引き交渉に応じることは賢明な選択となるでしょう。
賃貸の仲介手数料の仕訳方法
賃貸物件の仲介手数料を仕訳する場合、どのような勘定科目を使用すれば良いのでしょうか?勘定科目「受取手数料」は、仲介手数料の勘定科目と混同しがちです。ここでは、仲介手数料の仕訳方法について解説していきます。
仲介手数料の勘定科目は「売上高」
不動産会社が賃貸物件の仲介手数料を受け取った場合、その収益は本業の利益に該当するため、勘定科目は「売上高」となります。この収益は、賃貸借契約が成立した際に計上するのが基本的な処理方法です。
勘定科目「受取手数料」との違いに注意
手数料の仕訳に使われる「受取手数料」という勘定科目もありますが、これは本業以外で得た手数料に使われます。そのため、本業で得られる賃貸仲介手数料には「受取手数料」は使用しません。
例えば、自社の運営するウェブサイトに他社の広告を掲載し、その広告運用で得た手数料は「受取手数料」に該当します。これは、本業以外の収益として扱われるためです。
仲介手数料以外に賃貸契約で発生する費用
仲介手数料以外にも、賃貸契約によって発生する費用があります。主な費用は以下のとおりです。
- 敷金
- 礼金
- 日割り家賃、前家賃
- 火災保険料
- 家賃保証会社の保証料
- その他費用
敷金
敷金とは、入居者が退去時の原状回復費用として貸主に預けるお金です。地域によっては「保証金」と呼ばれることもあります。
相場は通常、家賃の1~2カ月分程度ですが、物件によっては敷金ゼロの場合もあります。その場合、敷金がない代わりに、退去時または入居時にハウスクリーニング代が請求されることがあります。
礼金
礼金とは、借主が貸主に対して物件を貸してもらう謝礼として支払う初期費用です。一部の地域では「敷引き」とも呼ばれることもあります。
一般的には、賃料の1~2カ月分が目安ですが、礼金は敷金と異なり、契約終了後も返金されません。なお、物件によっては礼金が不要な場合もあります。
日割り家賃・前家賃
日割り家賃とは、入居日から月末までの日数に応じて計算した家賃のことです。通常、管理費や共益費も含まれています。月の途中で入居または退去する場合に、この日割り家賃が適用されます。
前家賃とは、契約時に翌月分の家賃も一緒に支払うことです。したがって、契約月の家賃と翌月の家賃を合わせた2か月分を、初期費用として支払うケースが一般的です。
火災保険料
賃貸物件を借りる際には、火災保険へ加入するケースがほとんどです。加入自体はあくまでも任意で強制ではありません。しかし、物件によっては火災保険への加入が入居条件の1つになっている場合もあります。入居者が火災保険に加入することで、火災や自然災害が発生した際に家財道具に対する補償が受けられます。
家賃保証会社の保証料
家賃保証会社に加入する場合、保証料が発生します。家賃保証会社を利用すると、連帯保証人がいない人でも物件を借りることができ、貸主にとっても賃料滞納のリスクを低くできます。
保証料の相場は1~3万円、もしくは賃料総額の30~100%程度です。
その他費用
上記以外にも、鍵の交換費用やハウスクリーニング代などの費用が発生します。ハウスクリーニング代は敷金がない物件に設定されていることが一般的です。入居前に消毒殺菌や害虫駆除を行うための消毒費用の支払いが発生する場合もあります。
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賃貸仲介業務には、契約書や取引台帳の作成、集客活動、物件や顧客情報の管理など、多岐にわたる作業が求められます。これらの業務を効率化するためには、一元管理が可能なクラウドサービスの導入が効果的です。
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賃貸仲介を始めるなら賃貸手数料について理解しておこう
今回は、賃貸の仲介手数料について解説しました。不動産仲介業者にとって仲介手数料は重要な収入源です。その一方で、請求できる金額は法律で定められています。そのため、これから賃貸仲介事業を立ち上げようと考えている方においては、仲介手数料に関する理解を深めておくことが事業を成功させるためのポイントになるでしょう。
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