不動産業界で事業を行うためには、取得しておくべき免許があります。その中でもとくに重要性が高いといわれているのが「宅地建物取引業免許」です。この免許は、宅地建物取引業を営むために取得しなければいけません。
そこで今回は、そんな「宅地建物取引業免許」がいったいどのような資格なのか、なぜ必要なのか、取得前に確認しておくべきことはあるか、などについて解説します。その他、不動産業界で役に立つ資格もご紹介します。
不動産業界で必要となるのは「宅地建物取引業免許」
不動産業界で事業を行うのであれば、「宅地建物取引業免許」が必要になります。まずは、この免許の概要について解説していきます。2種類あるため、その違いについても確認していきましょう。
宅地建物取引業免許とは?
宅地建物取引業免許は、宅地建物取引業を営むのであれば取得しなければいけない資格です。ただし、取得するためには条件を満たす必要があるので、誰もが取得できるわけではありません。
個人、法人に関わらず申請は可能ですが、法人の場合は事業目的に「宅地建物取引業を営むこと」を記載する必要があります。
免許を持っていれば、自己物件の売買・交換、他人の物件の代理または他人の物件の媒介であれば売買・交換・賃貸が可能となります。不特定多数の相手に対して、宅地建物取引を反復もしくは継続して行えるようになるのが宅地建物取引業免許です。
この免許には、都道府県知事免許と国土交通大臣免許の2種類があります。それぞれの違いは以下の通りです。
宅建業免許① 都道府県知事免許
都道府県知事免許は、1つの都道府県内だけで不動産業を営む場合に必要です。東京都内に本社があり、その本社だけで営業をする場合は、東京都知事の宅建業免許を申請・取得します。東京都内に本社があり、同じく都内にある支店で宅建業を営む場合も、同じ都道府県内に事務所があるので、東京都知事の宅建業免許を申請・取得することになります。
都道府県知事免許の取得にかかる期間は、申請から1カ月程度が一般的です。ただし、事務所を設置する都道府県によって審査機関に多少の差があります。また、この期間に不動産業協会の審査期間は含まれません。
不動産業界への新規参入は、都道府県知事免許が一般的です。まずは本社がある都道府県で知事免許を取得し、規模がある程度拡大したら国土交通大臣免許に切り替えるのが王道といえるでしょう。
宅建業免許② 国土交通大臣免許
国土交通大臣免許は、いくつかの都道府県に不動産業の事務所を設置する場合に必要です。東京都に本社があり、近隣の埼玉県や千葉県でも不動産業を営む支店を設置する場合などは、こちらのケースに該当します。
国土交通大臣免許は、管轄の地方整備局がどこになるかで審査にかかる時間が変動しますが、3~4カ月程度かかるケースが多いです。また、この期間に不動産業協会の審査機関は含まれません。
国土交通大臣免許を取得するには、事務所ごとに専任の宅地建物取引士を設置しなければいけないなどの条件があります。そのため、どのような条件があるのか、あらかじめ確認しておきましょう。
不動産業界における宅地建物取引業免許の必要性について
続いては、宅地建物取引業免許の必要性について解説していきます。また、混同されがちな宅地建物取引士との違いについても確認しておきましょう。
なぜ免許が必要となるのか?
宅地建物取引業免許の必要性は、宅地建物取引業法第1条に記載されています。その中で、宅地建物取引業を営む個人や法人の免許制度を実施することで、適正な運営や取り引きの公平性を確保することが目的と明記されています。取り引きの公平性などを確保し、消費者の利益保護や不動産流通の円滑化などを図っているのです。
つまり、生活の基盤である「住」に関する知識や経験が乏しい一般消費者に対する損害を防ぐことが大きな目的だといえるでしょう。適正な業務を行って信頼してもらうためにも、この免許を取得した上で事業を行う必要性が大きいことがわかります。
宅地建物取引士との違いは?
宅地建物取引業免許と宅地建物取引士は、混同されやすい資格です。
宅地建物取引業免許は、不動産取引に関する法律に基づき、国が定めている資格です。これまでにも解説したように、宅地建物取引業に基づいたもので、宅地建物取引業を営む上で欠かせません。
一方、宅地建物取引士は、宅地建物取引業に関する専門的な知識・技術を持っていることを認定する資格です。宅地建物取引業法に基づいた国家資格で、国が定めた基準を満たしていれば、受験資格が得られます。
前者は宅地建物取引業を営むために必要な免許で、後者は専門的な知識や技能を持った宅地建物取引業の専門性を認定する資格となります。
免許を取得する前に確認すべきこと
宅地建物取引業免許の取得を目指すためには、確認しておくべきポイントがあります。それは、欠格事由や事務所の範囲、専任の取引士の設置などです。ここでは、具体的に何を確認しておくべきなのか解説していきます。
欠格事由に該当していないか
欠格事由は宅建業法第5条第1項に記されています。欠格事由には以下のような点が盛り込まれています。
- 免許申請書や添付書類の中に虚偽の記載があり、重要事項の記載がされていない場合
- 申請前(5年以内)に業務停止処分事由に該当し、情状が特に重い場合もしくは業務停止処分違反に該当するとみなされて免許を取り消された者
- 成年被後見人や被保佐人、破産者で復権を得ない者
- 事務所に専任の取引士が設置されていない者
- 宅地建物取引業に関し不正もしくは不誠実な行為をすることが明らかな者 など
これらの欠格事由に該当すると、免許取得後でも取り消しになるので注意が必要です。
事務所の範囲はどうか
ここでは、事務所として認められる範囲について見ていきましょう。
宅地建物取引業法第3条第1項では「本店、支店その他政令で定めるものをいう。」と規定しています。基本的には、次の二つを業法上の事務所として定義しています。
- 本社または支社として商業登記されている
- 継続的に業務を行える施設があり、宅建業の契約を締結する権限を持つ使用人が置かれている
なお、本社で宅建業を営まず、支社でのみ宅建業を営む場合も、本社は支社の活動を統括管理するものとみなされ「事務所」の扱いとなります。そのため、本社にも専任の宅地建物取引士の設置や営業保証金の供託が求められます。
一方、支店の登記があったとしてもその支店で宅建業を行わない場合は、事務所として扱われることはありません。その場合、「営業を行わない旨の誓約書」が必要となるため、事前に準備をしておきましょう。
事務所要件の適格性はどうか
事務所は、物理的にも社会通念上も独立した業務を他の業務と混同することなく行える機能を持つと判断されるものでなければなりません。具体的には、以下の要件を参考に、基準を満たしているかどうかを確認しましょう。
- テントやコンテナ、ホテルの1室、キャンピングカーなどは認められない
- 1つも部屋を他者と共同で使う場合も認められない(一定の高さ(180cm以上)を持つ固定式のパーティションなどで仕切られていて、独立性が保たれていれば認められる可能性がある)
- 事務所所在地の用途地域が第一種低層住居専用地域もしくは第二種低層住居専用地域にある場合、事務所部分が50㎡以下であり、延べ面積の2分の1以下でなければいけない
- 第一種中高層住居専用地域もしくは第二種中高層住居専用地域にある場合は、事務所は2階以下でなければいけない
専任の取引士は設置できているか
事務所には、専任の宅地建物取引士を設置する必要もあります。条件を満たしていない場合は事務所を開設できません。既存の事務所で条件が満たされていない場合は、2週間以内に新たに宅地建物取引士を補充する必要があります。
宅地建物取引士は、試験に合格していて、資格登録後に取引証の交付を受けていなければなりません。交付を受けていたとしても、有効期限が切れていたり、取引士証に勤務先登録がされていたりする場合は認められませんので注意しましょう。宅地建物取引士が必要な理由は、不動産の契約締結の中で欠かせない重要事項説明が宅地建物取引士にしかできない独占業務だからです。
重要事項の説明は、専任ではない宅地建物取引士でも対応可能です。しかし、宅建業を営むのであれば、専任の取引士を常駐させなければいけないことを覚えておきましょう。
営業保証金の準備はできているか
宅地建物取引業を営むためには、開業時の営業保証金の供託が義務となっています。宅地建物などの不動産取引は金額が大きいので、消費者を保護する観点から、取引相手が受けた損失を弁済できるようにすることが目的です。
営業保証金は1,000万円です。また、いくつかの支社がある場合は、本社が1,000万円、支社ごとに500万円の供託が必要となります。
ただし、不動産保証協会に加入すれば、弁済業務保証分担金として60万円を納付することで、営業保証金の供託は免除されます。不動産保証協会には、「全国宅地建物取引業保証協会(全国宅地建物取引業協会連合会)」と「不動産保証協会(全日本不動産協会)」があります。
宅地建物取引業免許の取得手順
宅地建物取引業免許を取得するためには、必要な手順を段階的に踏んでいかなければいけません。続いては、宅地建物取引業免許の取得手順について解説していきます。これから取得を考えている方や法人の担当者は、ぜひご確認ください。
1.申請に必要な書類を準備する
まずは、申請に必要な書類を準備します。※が付いている書類には法定様式があり、都道府県の窓口やWebサイトでの取得が必要です。
- 免許申請書※
- 相談役および顧問、5%以上の株主・出資者などの名簿(法人の場合)※
- 身分証明書
- 登記されていないことの証明書
- 代表者の住民票(マイナンバーの記載がないもの)(個人の場合)
- 略歴書※
- 専任の取引士の設置証明書※
- 宅地建物取引業に従事する者の名簿※
- 専任の取引士の顔写真を貼付する用紙
- 法人の履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 宅地建物取引業経歴書※
- 決算書の写し(法人の場合)
- 資産に関する調書(個人の場合)※
- 申請直前の1年分の納税証明書(新設法人以外)
- 誓約書※
- 事務所を使用する権原に関する書面※
- 事務所付近の地図※
- 事務所の写真※
2.申請をして審査を受ける
必要な書類が揃ったら、都道府県の窓口で申請し、審査を受けます。申請して提出書類に不備がないと判断されたら、欠格事由の審査や事務所調査などが行われます。審査が終わるまでの期間は、申請してから30~40日程度です。 審査が完了すると、普通郵便はがきで本社宛てに通知が届きます。
もしも、申請した内容に変更が生じた場合は、申請の取り下げを行わなければいけません。そのため、内容に不備がないよう確認を徹底するようにしましょう。
3.営業保証金の供託または保証協会に加入する
免許の通知を受け取ったら、営業保証金の供託もしくは保証協会に加入します。
営業保証金の供託は、本社の所在地を管轄する供託所で行い、受け入れの記載がある供託書の写しを添付した届出を都道府県に提出します。この手続きは、免許を受けた日から3カ月以内に行わないと免許が取り消しになってしまうため、できるだけ早めに行うようにしましょう。
また、前述したように保証協会に加入すれば、営業保証金の供託は免除になります。
4.免許証を受け取る
営業保証金の供託に関する届出を提出して受理されたら、宅地建物取引業の免許証を受け取ることができます。保証協会に加入した場合の免許証交付先は保証協会になります。
無事に免許証を受け取れば、後は宅地建物取引業者として営業をスタートするだけです。申請から免許の受領までをスムーズに行うためにも、情報収集や準備などをぬかりなく行うことが重要です。
不動産業界で事業を行う際に役立つその他の資格
最後に、不動産業界で事業を行う際に持っているとメリットの大きい資格についてご紹介します。資格取得を検討していて、どれを選んだらよいか迷っているという方は必見です。
賃貸不動産経営管理士
賃貸不動産経営管理士は、その名の通り賃貸住宅の管理に関する専門家です。賃貸借契約を結んだ後のトラブル対応や、設備の維持・点検を行います。2021年からは賃貸住宅管理業の「業務管理者」の要件である国家資格にもなっていて、注目度が急上昇している資格です。
賃貸不動産経営管理士になるためには、まず毎年11月に行われている試験に合格しなければいけません。なお、賃貸不動産経営管理士講習(有料)を受けると、修了年度とその翌年度の試験で試験問題5問が免除されます。また、この資格を取得するためには、試験に合格するだけではなく、実務経験や試験合格からの経過年数などの要件を満たす必要もあります。
知名度はそこまで高い資格ではありませんが、今後需要が高まると予想されているので、取得を検討する価値は大いにあるでしょう。
マンション管理士
マンション管理士は、マンション管理に関連するコンサルティングなどを行います。マンション管理士になるためには国家試験に合格しなければいけません。資格を取得していれば、マンションの維持・管理に関する提案や指導、大規模修繕工事の計画立案などができます。
勤務先は、マンション管理会社やマンションを建てている建築会社などが一般的です。老朽化の進むマンションが増えており、修繕のニーズが高まっていることから、注目を集めています。ただし、マンション管理士の合格率は10%未満と非常に低いです。難易度が高い資格なので、合格を目指すためには模擬試験や講習会を利用するなどが欠かせません。
管理業務主任者
管理業務主任者は、マンション管理業者が管理組合に対し、管理委託契約に関する重要事項説明や管理事務報告を行うときに必要となる国家資格です。管理業務主任者試験に合格し、登録を済ませると管理業務主任者証が発行されます。
マンション管理士の場合は独立などを検討する場合もあります。しかし、管理業務主任者は、マンションの管理会社で勤務するのが基本的な働き方です。将来的に独立をしたいならマンション管理士、会社員として勤務し続けたいなら管理業務主任者を目指すのがおすすめです。
参考:管理業務主任者公式サイト
不動産関連の免許・資格を取得し、事業の幅を広げよう
宅地建物取引業免許をはじめとした不動産関連の免許・資格を取得することで、事業の幅は広がっていきます。資格を持っていればそれだけ深い知識を持っている証にもなるので、顧客からの信頼度も高まるでしょう。免許や資格の取得はメリットが大きいため、ぜひ前向きに検討してみてください。