賃貸経営では、入居者からのクレームを未然に防ぐことが非常に重要です。とくに「騒音トラブル」は賃貸物件でよく発生する問題の一つです。では、なぜ騒音トラブルが起きるのでしょうか?
この記事では、賃貸物件で騒音トラブルが発生する主な原因と、その解決策を詳しく解説します。また、騒音トラブルに対処する際の注意点についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
賃貸物件で騒音トラブルが起きる原因
賃貸物件で発生する騒音トラブルは、以下の原因で発生しているケースが多いです。
- 物件の構造の問題
- 入居者の生活リズムや意識の違い
- 入居者の家族構成の違い
それぞれの原因について詳しく解説していきましょう。
物件の構造の問題
物件の構造には、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などがあります。この中でも、木造や鉄骨造は他の構造に比べて防音性が低く、生活音が隣や階下に響きやすい特徴があります。
さらに、築年数が経っている物件では、壁に遮音材が使われていなかったり、遮音性の低い窓サッシが使われていたりすることもあるでしょう。また、部屋内にパイプシャフトがあったり、隣のユニットバスが居室の隣に位置していたりする場合も、騒音が発生しやすくなります。こうした建材や間取りが原因で、騒音トラブルが起こることがよくあるので注意しておきましょう。
入居者の生活リズムや意識の違い
入居者それぞれの生活リズムは異なります。たとえば、子どもがいるファミリー世帯では、朝早く起きて準備をし、夜は早めに就寝することが多いでしょう。
一方で、夜勤をしている人は、午前中に寝て昼ごろ起き、夜に仕事に出かけ、早朝に帰宅するのが一般的です。このように、賃貸物件では多様な生活リズムを持つ人々が住んでいるため、隣や上下階の住人の生活音が気になることがあります。
また、同じ建物に多くの世帯が暮らしているため、テレビや音楽を大音量で流したり、深夜に騒いだりするマナーの悪い人がいると、騒音トラブルが発生しやすくなるでしょう。
入居者の家族構成の違い
入居者の家族構成が違うことで、生活音への理解を得られずにトラブルへと発展してしまうケースもあります。たとえば、小さい子どもがいる家庭の階下に一人暮らしの人が住んでいた場合、子どもが走ったり騒いだりする音に対して理解や共感ができず、騒音トラブルになる可能性が高いです。このようなケースは周りが全員子育て世帯であれば、許容される場合もあります。
また、ペットの鳴き声や走る音なども騒音トラブルのきっかけになります。このように、入居者の家族構成が違うことで騒音トラブルに発展しやすいことも覚えておきましょう。
一般的に騒音に感じる音の大きさ
環境省では環境基本法に基づき、騒音に係る環境基準を示しています。
地域の類型 | 基準値 | |
昼間 | 夜間 | |
AA | 50デシベル以下 | 40デシベル以下 |
AおよびB | 55デシベル以下 | 45デシベル以下 |
C | 60デシベル以下 | 50デシベル以下 |
AA:療養施設や社会福祉施設などが集合し、設置されている地域など
A:住居用の地域など
B:主に住居での利用が多い地域
C:住居以外に商業・工業にも利用されている地域
住居が設置されている地域では、昼間が55デシベル以下、夜間は45デシベル以下が基準です。どれくらいの音量かというと、50デシベルで家庭用クーラーや室外機、静かな事務所内などになります。
騒音トラブルになりやすい音の種類
音にもさまざまな種類がありますが、その中でもとくに騒音トラブルとなってしまいやすいのは、以下の2つです。
- 固体伝搬音
- 空気伝搬音
それぞれの音の特徴についてご紹介します。
固体伝搬音
固体伝搬音とは、主に床や壁など固体の振動によって伝わる音です。足音や物を動かす際に生じる音などが、固体伝搬音に当てはまります。
空気伝搬音とは異なり、壁や床を厚くしたところで完全に防ぐことはできません。ただし、衝撃吸収性能のある床材などを使用することで、音を緩和することが可能です。
固体伝搬音は下の階の音圧レベルを表す「L値」で示されます。L値が小さければ小さいほど遮音性は高くなります。木造のアパートではL値は70~75程度、マンションだと40~50程度が一般的です。
空気伝搬音
空気伝搬音とは、空気から伝わる音を指します。たとえば、テレビの音や話し声などはすべて空気を伝って響いているので、空気伝搬音となります。
空気伝搬音の特徴は、障害物が多いと音が小さくなることです。テレビから音が聞こえる人の間に壁やカーテンなどの障害物があることで、伝わる音も小さくなっていきます。
空気伝搬音は壁の透過損失を表す「D値」で示されます。D値はL値と違って数字が大きければ大きいほど遮音性が高いといえるでしょう。マンションではD値45~50程度が基本ですが、木造アパートだとD値が30の物件も少なくありません。
騒音に関する法的ルールについて
ここでは、騒音に関する法的ルールについて、騒音規制などに該当するのかどうかを詳しく解説します。
民間を対象にした騒音規制はない
騒音規制法という法律はあるものの、これは工場など事業者に限定したものです。工場・事業所などで事業活動や建設工事に伴う騒音がある場合、規制を行うことで生活環境の保全と国民の健康を保護することを目的としています。そのため、入居者による騒音は騒音規制法の対象外となります。
他にも、環境省によって騒音規制や条例による規制はあるものの、入居者に対する直接的な騒音規制は存在しません。
規制はなくても不法行為になる可能性はある
騒音規制はないものの、騒音の大きさなどによっては不法行為とみなされる場合もあります。たとえば、聞こえているにもかかわらず、それ以上の音量を出してテレビを観ていたり、足音をわざと鳴らして階下の人を困らせたりしたことで、入居者がうつ状態などの実害を被ってしまった場合、損害賠償請求を行うことが可能です。
騒音トラブルを解決するためのステップ
騒音トラブルが発生した場合、解決に向けて取り組みのポイントは以下のとおりです。
- 騒音トラブルの現状を確認する
- 入居者全員に騒音の注意喚起をする
- 個別で入居者に注意喚起をする
1.騒音トラブルの現状を確認する
まずは、騒音について相談してきた人に詳しくヒアリングを行いましょう。騒音が始まった時期、音の種類(足音、会話、機械音など)、頻度、時間帯、音が聞こえてくる場所など、状況を細かく確認します。その後、他の住民にも話を聞いて、全体の状況を把握することが大切です。
必要に応じて騒音測定器を使い、騒音レベルを調査します。場合によっては、騒音と感じるレベルではないこともあるため、数値で確認することが重要です。また、騒音が長時間続く場合や繰り返し発生している場合は、相談者に協力してもらい、できるだけ多くの記録を取ってもらうようにしましょう。
2.入居者全員に騒音の注意喚起をする
騒音トラブルが確認され、その原因が特定できたら、各部屋のポストやエントランスの掲示板などで、騒音に関する注意喚起を行います。この際、特定の入居者に対して直接注意するのではなく、全員に向けたお知らせとして配布し、間接的に注意を促すことがポイントです。
また、相談者が過敏になりすぎている可能性もあるため、全体を公平な視点で見ながら、バランスの取れた対応を心がけましょう。
3.個別で入居者に注意喚起をする
入居者全員に注意喚起を行っても騒音が止まらない場合は、騒音を出している入居者に対して直接注意をすることになります。ただし、不動産管理会社は中立の立場を保ち、騒音を出している側の意見も聞きながら、仲裁役としてトラブルの解決を目指しましょう。
それでも改善が見られない場合は、騒音の調査結果や証拠をもとに、具体的な内容で注意を伝えます。騒音を出している本人がその事実に気づいていないことも多いため、事実を伝えることで改善に至ることもあります。分譲マンションの場合は、管理組合に相談して解決を図ることも一つの方法です。
騒音トラブルによる強制退去は可能?
あまりにも騒音トラブルがひどい入居者に対して、強制退去をさせることは可能なのでしょうか?ここでは、強制退去の可否についてご紹介します。
強制退去させるには条件がある
結論からいえば、騒音トラブルによる強制退去は可能です。ただし、強制退去をさせるためには契約書に騒音に関する記載があり、騒音主本人が騒音を出していると認めない限り契約解除はできません。
これは入居者にも居住権という権利があり、借地借家法で保護されているためです。法律で保護されているにもかかわらずオーナーが勝手に鍵を交換して部屋に入室できなくしたり、家財などを勝手に処分したりすると、オーナー側が訴えられてしまいます。
実際に騒音を出しているのに認めてもらえない場合は、裁判で明け渡し請求を行う必要があります。裁判で請求が認められる判決が下りた場合、強制執行によって退去させることが可能です。
強制退去の流れ
騒音主を強制退去させたい場合、まずは上記でもご紹介したステップで事実確認や入居者への通知・勧告を行います。入居者全体に周知させ、それでも騒音問題が解決しない場合、口頭と書面を使って複数回の注意喚起を実施しましょう。
次に内容証明郵便による勧告を行います。通常の郵便ではなく内容証明郵便で送付することで、郵便を受け取った相手は「そんな書面は受け取っていない」といった言い訳がむずかしくなるのです。
内容証明郵便で勧告しても応じてもらえない場合は、賃貸借契約解除の法的効果が発生します。賃貸借契約の解除を行ってから明け渡し請求の訴訟提起を実施し、請求が認められた場合は裁判所が入居者を強制退去できるようになります。
なお、裁判が始まるまでに和解調停を行うことも可能で、和解が成立しなかった場合は裁判による判決が下ります。
騒音トラブルの対処での注意点
騒音トラブルが発生した際には不動産管理会社が間に入って対処する必要があります。この騒音トラブルの対処を間違えてしまうと入居者からの不満につながってしまうため、注意しながら騒音トラブルの対処を行う必要があります。
- 騒音トラブルの対応は素早く行う
- 注意文は曖昧な表現や犯人を特定する情報を避ける
- 具体的なアドバイスをする
どのような注意点があるのか、具体的に解説していきましょう。
騒音トラブルの対応は素早く行う
入居者から騒音に関するクレームが届いたら、素早く対応することが大切です。もし対応が遅れてしまうと、被害を受けている入居者が個人的に対応したことで事態が悪化したり、不満につながって退居したりする可能性があります。
ただし、入居者と不動産管理会社で直接的に問い合わせるのがむずかしく、事態が悪化してから不動産管理会社が介入するケースも少なくありません。このような事態を回避するために、入居者専用アプリ『いい生活Home』がおすすめです。
『いい生活Home』は賃貸物件の管理会社と入居者がスムーズにコミュニケーションを図れるアプリです。アプリから騒音も含めたトラブルの報告や相談、メンテナンス依頼、お知らせの受け取りなども行えます。『いい生活Home』の活用で、騒音トラブルにもいち早く対応しやすくなるでしょう。
注意文は曖昧な表現や犯人を特定する情報を避ける
騒音の注意喚起を行う際に、文書を通して行うことになりますが、このとき文書に記載する注意文は感情的な表現を避けることも重要です。あくまで冷静に、ビジネスライクな対応を心がけましょう。
また、曖昧な表現をしないことも大切です。たとえば「夜間は大きな音を出すことをお控えください」と書くよりも、「夜間は大きな声での会話や、大音量でテレビを観たり音楽を聴いたりするのはお控えください」と書いた方が何に気を付ければいいのかを具体的に理解できます。
さらに誰が騒音主か、犯人の特定につながるような情報は載せず、入居者全体や特定の階層における注意文を作成するようにしましょう。
具体的なアドバイスをする
注意喚起を行う際に、注意を呼びかけるだけでなく具体的なアドバイスも行うことで平和的な解決につながる場合もあります。たとえば騒音主が騒音を出している自覚がなかった場合、注意喚起と具体的なアドバイスを載せた文書を通知することで、自分が騒音を出していると自覚でき、アドバイスに従って騒音を出さないように気を付けてくれる可能性が高いです。そうなれば強制退去などもなく、騒音トラブルを解決できるでしょう。
たとえば「床にマットやカーペット、防音マットを敷く」「椅子やテーブルなど家具を移動させるときは引きずらないように気を付ける」などです。騒音は構造の問題が原因になることもありますが、工夫次第で解決する場合もあるため、具体的なアドバイスも盛り込むようにしましょう。
入居前から騒音の事前対策をすることも大切
騒音トラブルを防ぐためには、入居前から事前に対策を講じることが重要です。以下の対策を取ることで、騒音トラブルのリスクを減らせます。
- 入居審査を徹底する
- マナー同意書を作成する
- 入居時にマナーや騒音に関する注意喚起を行う
たとえば、入居審査の際には、面談時の態度や身だしなみに注目しましょう。対面で大声を出す人は、騒音トラブルの原因になる可能性が高く、また高圧的な態度を取る人は、騒音以外でも他の入居者とトラブルを起こすリスクがあります。
また、賃貸契約書とは別に「マナー同意書」を作成し、契約時に同意してもらうことで、後に騒音トラブルが発生した場合に証拠として使えます。マナー同意書を作成する際は、弁護士に相談しておくとより安心です。
騒音トラブルは速やかに対処することが大切
今回は、賃貸物件で騒音トラブルが発生する原因やその解決策、対処時の注意点などをご紹介してきました。騒音トラブルはどの賃貸物件でも起こり得る問題であり、場合によっては入居者の退去により物件のオーナーや不動産管理会社にも損害が出てしまうため、クレームが来たら速やかに対処する必要があります。
事前に入居者が管理会社へ相談しやすい環境を整えておくことで、騒音トラブルへの速やかな対処にもつながります。入居者アプリ『いい生活Home』を活用すれば、入居者からの問い合わせにもすぐに対応することが可能です。さらに入居者へのお知らせも一斉に通知できるため、業務効率化のメリットもあります。
入居者とより良い関係を構築し、住みよい環境の提供と業務効率化を図るためにも入居者アプリ『いい生活Home』の導入をぜひご検討ください。