不動産売買仲介業務では、契約書を作成する前に、承諾書を交付することがあります。不動産売買で使用される承諾書は「売渡承諾書」と呼ばれます。
今回は、承諾書の基本的な特徴に加えて、売渡承諾書の書き方やテンプレート、同意書や契約書との違いについて解説します。不動産売買に関する承諾書の概要を知りたい方はもちろん、売渡承諾書の具体的な書き方やテンプレートをお探しの方も、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
承諾書とは?
承諾書は、相手に対して承諾の意思を正式に伝えるための書類です。口頭での約束ではなく、書面で明確な意思表示が行われるため、無用なトラブルを避けることができます。
代表的な例として、内定承諾書や入社承諾書、使用承諾書などが挙げられます。例えば、企業が求職者に内定を出す際の「内定承諾書」は、内定者が書面を提出することで、入社の意思を正式に表明したとみなされます。
同意書や契約書との違い
承諾書は、相手に対して承諾の意思を示す書類ですが、同意書や契約書とは何が異なるのでしょうか?
まず、承諾書と同意書は似た位置づけにありますが、示す意思に違いがあります。同意書は「賛成の意思」を示すのに対し、承諾書は「引き受ける意思」を示します。例えば、内定の場合、内定者が「入社に賛成する」というよりも「入社を引き受ける」という意味がより自然なため、内定時には承諾書が交付されます。
一方、契約書は「法的に権利や義務を約束する書類」です。承諾書が一方の当事者の意思のみを示すのに対し、契約書には双方の合意が必要となります。書式にも違いがあり、承諾書には承諾する人の署名欄しかありませんが、契約書には双方の署名欄が設けられています。
不動産仲介で作成される売渡承諾書とは
不動産仲介業務においては、「売渡承諾書」という書類を作成する機会もあります。売渡承諾書とはどういった書類なのか、その特徴について解説していきます。
不動産を売り渡す意思を表明する書面
売渡承諾書とは、不動産の購入希望者に対して、その土地や建物を売り渡す意思を示す書面です。基本的には売主から買主に向けて提供されます。
売買契約書とは異なり、売渡承諾書自体には法的効力はありません。そのため、売渡承諾書が交付されなくても、売買契約の締結は可能です。あくまで売り渡す意思を示す書類であり、売買契約書のように法的拘束力を持つものではありません。
ただし、例外として、売渡承諾書に法的拘束力が生じる場合もあります。例えば、売渡承諾書を交付後、交渉が進み契約内容が具体化したにもかかわらず、一方の当事者が正当な理由なく交渉を打ち切った場合です。このような場合、信義則に反するとみなされ、売渡承諾書自体には法的拘束力がないとしても、損害賠償の対象となる可能性があります。ただし、すべてのケースに該当するわけではなく、状況により異なります。
売渡承諾書は交渉を進めやすくするために必要
不動産売買において、売渡承諾書が交付されるのは、高額な資産である不動産の取引交渉をスムーズに進めるためです。不動産を購入するには、購入だけでなく登記手続きなども必要であり、取り引きに至るまでの手続きは迅速に行う必要があります。
購入希望者は、他の候補者と競争することなく、売主との交渉を進めたいと考えることが多いです。そこで、売渡承諾書を作成することで、売主が前向きに売却を考えていることを買主に伝えられます。お互いの時間を無駄にせず、交渉を円滑に進めるために、売渡承諾書の交付は有効な手段といえるでしょう。
売渡承諾書の交付後でも売り渡しのキャンセルは可能
売渡承諾書を交付した後、必ずその買主に売却しなければならないのかと不安に思う方も多いでしょう。しかし、実際には、売渡承諾書を交付した後でも売却をキャンセルすることは可能です。
キャンセルしても特にペナルティが発生するわけではありません。これは、売渡承諾書に法的効力がないためです。ただし、先ほどご紹介したように、一方的に交渉を中止し売却をキャンセルした場合、信義則に反するとみなされ、損害賠償を請求される可能性があります。また、手付金が支払われている場合には、手付金の倍額を返却しなければならないケースもあります。
買付証明書との関係性
売渡承諾書は、買主が売主に買付証明書を提出した際に、売主から買主に提供されます。買付証明書は、不動産の購入を前向きに検討していることを示す書類で、希望する購入金額や条件が記載されています。
不動産業界では、先に意思表示をした人が優先的に交渉を進めるのが一般的です。そのため、購入希望者は買付証明書を提出することで、他の購入希望者との競争を避け、優先的に交渉を進められる場合があります。
ただし、買付証明書も売渡承諾書と同様、法的な拘束力はありません。したがって、買付証明書を提出した後でも、購入意思を撤回することは可能です。
売渡承諾書のテンプレート&書き方
売渡承諾書は、基本的に売主が作成するものですが、多くの場合、不動産会社が売却依頼を受けた際に雛形を準備します。不動産会社によって雛形に多少の違いはありますが、一般的には売主と購入希望者の氏名や住所、売渡しの意思、不動産の詳細情報などが記載されます。
以下に、売渡承諾書のテンプレートを載せていますので、参考にしてみてください。
売渡承諾書で特に重要な記載事項
売渡承諾書で特に重要となってくるのは、以下の3点です。
- 売渡承諾書の有効期限
- 不動産の売渡価格
- 不動産の引渡条件
売渡承諾書の有効期限
売渡承諾書には、有効期限を明記します。これは、交渉が長引くことで売買契約が成立しなくなるリスクを避けるためです。有効期限を設定することで、スムーズな取り引きが期待できます。
有効期限は、買付証明書の内容をもとに決められますが、一般的には住宅ローンの事前審査も考慮し、記入日から1カ月程度が目安とされています。ただし、案件ごとに適切な有効期限は異なるため、状況に応じて調整が必要です。
不動産の売渡価格
次に重要となってくるのが、不動産の売渡価格です。買主は買付証明書で買付金額を、売主は売渡承諾書で不動産の売渡価格を提示します。
売渡価格を記載することで、価格交渉のラインを伝えることができます。この価格をお互いが確認することで、交渉時に折り合いがつくかどうかを判断します。
値引きを行わないのであれば、買付証明書を受け取らない選択肢もあるでしょう。この場合、売渡承諾書も用意する必要がありません。
不動産の引渡条件
売主と買主の合意をスムーズに進めるために、売渡承諾書には不動産の引渡条件も記載します。例えば、現状引渡しか、更地渡しか、手付金・中間金・残代金の支払い方法、引渡時期などが含まれます。これらの条件は、案件ごとに異なることが多いでしょう。
引渡条件は、売主と買主の利益バランスを考慮して設定することが重要です。例えば、更地渡しの場合、売主が解体費用を負担するため、買主にとって有利な条件となります。一方、引渡しの猶予期間や短期間の契約不適合責任の設定は、売主に有利な条件です。どちらか一方に偏りすぎない条件を設定することが大切です。
売渡承諾書の送付方法
売渡承諾書を送付する際には、以下のポイントを押さえておく必要があります。
- 送付状を作成して添付する
- 簡易書留で送る
各ポイントについて詳しく解説していきましょう。
送付状を作成して添付する
売渡承諾書を郵送で送る際は、承諾書だけを送るのではなく送付状も作成して添付するのがビジネスマナーです。送付状を添付することで、どのような書類が入っているのかを明示できます。
送付状を作成する際には、どのような書類が、いくつ入っているかを記載します。同封する書類が売渡承諾書のみの場合、「売渡承諾書 1通」と記載しておけば問題ありません。承諾書以外に別の書類も同封する際も同様に、書類の種類と数を記載しましょう。
なお、書類に対する返送が必要な場合は、送付状にいつまでに返送してほしいかなども記載します。その際、返送用の封筒も同封しておくとよいでしょう。
簡易書留で送る
郵送で売渡承諾書を送る際には、簡易書留で送るのが一般的です。簡易書留は通常の郵送とは異なり、発送者と受取人の住所を確認でき、郵便物が無事に郵送されているかを追跡できます。
また、簡易書留で送ることで、郵便物の配達履歴が記録され、発送者のもとに郵送完了の通知が届きます。手渡しによって郵便物が確実に届けられるため、重要度の高い書類を郵送するのに適しています。
メールで売渡承諾書を送る場合のポイント
郵送ではなくメールで売渡承諾書を送る場合は、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 件名・本文に添付ファイルの内容を明示する
- 売渡承諾書に関する質問の問い合わせ先を記載する
件名・本文に添付ファイルの内容を明示する
件名と本文に、売渡承諾書のファイルを添付している旨を記述し、明確に伝えることが大切です。メールに書類を添付する場合、受け取る側は本当に開いてもよいファイルかどうかがわからない状態で受け取ることになります。
もし、メール本文に売渡承諾書のファイルを添付した旨を書かなかった場合、添付ファイルの存在に気付かなかったり、気付いたとしてもウイルスメールのリスクも考慮して開封できなかったりといった可能性もあります。こうした事態を回避するためにも、件名や本文に売渡承諾書のファイルを添付している旨を記載することが大切です。
売渡承諾書に関する質問の問い合わせ先を記載する
メールで送付する際は、売渡承諾書の内容に関する問い合わせに答えられるように、問い合わせ先を本文に記載しておきます。添付する書類によっては送信者以外が問い合わせの窓口になるケースもあります。
例えば売渡承諾書であれば、売主が直接買主に対してメールで送付したとしても、問い合わせ先は不動産会社となるケースも多いでしょう。そのような場合には、メール本文に不動産会社の問い合わせ窓口に関する情報を記載しておくと安心です。
不動産売買業務の支援に『いい生活売買クラウド One』
不動産の売買や仲介業務では、売主に売渡承諾書の雛形を渡し、作成を依頼することが一般的です。しかし、こうした書類作成には思った以上に手間がかかることがあります。
不動産売買業務をより効率的に進めたい方は、不動産売買業務のすべてをカバーする『いい生活売買クラウド One』の導入をぜひご検討ください。ここからは、不動産売買業務のすべてをカバーする『いい生活売買クラウド One』の主な特徴についてご紹介します。
査定書の作成や媒体契約書の管理を効率化できる
不動産売買業務のすべてをカバーする『いい生活売買クラウド One』は、不動産売買業務のデジタル化をサポートするシステムで、現場のニーズを反映した多彩な機能を備えています。
例えば、レインズの事例データを取り込む機能を利用することで、売却物件の査定書をスピーディーに作成でき、より詳細な査定価格書の作成も簡単に行えます。
さらに、店頭用の物件広告や販売図面などのチラシを簡単に出力でき、物件や契約関連の書類もクラウド上で一括管理が可能です。
物件情報の登録・更新の手間を軽減
不動産売買業務のすべてをカバーする『いい生活売買クラウド One』には、物件情報の掲載や更新を効率化するコンバート機能が搭載されています。この機能を使うことで、複数の主要不動産ポータルサイトに物件情報を一括で掲載することが可能です。さらに、ポータルサイトごとにセールスポイントを柔軟に調整して表示することもできます。
加えて、一括編集機能を活用することで、ポータルサイトに投稿した物件情報をまとめて最新情報に更新できます。また、店舗間で物件情報を簡単に共有できるため、これまで時間がかかっていた情報の登録や更新作業が大幅に軽減され、業務の効率化につながるでしょう。
スピーディーな機能改善で安心
不動産売買業務のすべてをカバーする『いい生活売買クラウド One』は、クラウドシステムであるため、最新の法改正にも迅速に対応できます。法改正があるたびに契約書の雛形を変更しなければならない場合、通常は調査や変更作業に多くの時間とコストがかかってしまいます。しかし、不動産売買業務のすべてをカバーする『いい生活売買クラウド One』なら、ベンダーが法改正に合わせた機能改善を行ってくれるため、更新の手間を最小限に抑えることが可能です。
さらに、月に1度のペースで銀行や住所のマスタ情報が更新されるため、入力ミスを減らし、業務の効率化にも貢献します。
不動産売買をスムーズに進めるために売渡承諾書を作成しよう
今回は「売渡承諾書」についてご紹介しました。不動産仲介において、売渡承諾書の発行は必須ではなく、法的拘束力もありません。しかし、交渉を円滑に進めるために、作成・発行しておくことが望ましい書類です。
売渡承諾書は、基本的に不動産会社が雛形を用意し、売主に記入を依頼します。そのため、紹介したテンプレートなどを参考にして、あらかじめ雛形を作成しておくとよいでしょう。
ただし、売渡承諾書の作成をはじめ、書類作成は意外と手間がかかるものです。こうした業務の負担を軽減したい方には、不動産売買業務のすべてをカバーする『いい生活売買クラウド One』の利用をおすすめします。
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