未成年者や疾患などで本人が契約や法律行為を行えない場合、法定代理人が代わりに手続きを進めることがあります。不動産売却でも、法定代理人が売買契約を行うことが可能です。
ただし、法定代理人を介して不動産を売却する際には、所有者本人が直接行う場合よりも手続きが複雑になることが多いため、注意が必要です。そこで今回は、法定代理人の役割や権利、さらに法定代理人が不動産売却を行う方法と注意点について詳しく解説します。
法定代理人とは?
法定代理人とは、法律で認められた代理権を持つ人のことです。代理権とは、本人に代わって他の人が契約やその他の法律行為を行うことができる権利を指します。
この法定代理人は、主に未成年者や判断力が低下している人(例:障害や疾患を持つ人)に対して選ばれ、本人が自分で行うのが難しい手続きや財産の管理を代わりに行います。また、法定代理人は本人の意思ではなく、家庭裁判所によって選任される点が特徴です。
法定代理人の種類と役割
法定代理人には、以下の種類があります。
- 親権者
- 未成年後見人
- 成年後見人
- 代理権が付与された保佐人・補助人
- 不在者財産管理人
- 相続財産管理人
法定代理人の種類によって役割が民法によって決まっているので、詳しく見ていきましょう。
親権者
本人が18歳未満の未成年の場合、法定代理人として手続きを行うのは、親権を持つ父母などの保護者です。未成年者が一人ではできない手続きは、この親権者が代わりに行います。両親が離婚する際には、協議や裁判を通じて、どちらか一方が親権者として選ばれます。
親権者には、未成年者の生活や教育、財産の管理を行う権限があり、この権限は、子どもの利益を守るために使われます。
未成年後見人
未成年後見人は、親権者に代わって未成年者の生活や教育、財産の管理を行う法定代理人です。親権者が行方不明になったり、亡くなったりしている場合に、未成年後見人が選ばれます。また、親権者が悪意を持って権利を放棄し、未成年者に不利益を与える可能性がある場合にも未成年後見人が選任されます。
未成年後見人は、未成年者に財産がある場合や、第三者の養子になる際、相続における遺産分割が必要な場合に必要です。未成年後見人を親権者が遺言で指定することもありますが、遺言がない場合は、家庭裁判所に親族などの利害関係者が申し立てを行うことで選ばれます。
成年後見人
成年後見人は、認知症や知的障害などで判断力が低下し、自分で財産の管理が難しい人(成年被後見人)のために選ばれる法定代理人です。家庭裁判所に申し立てが認められると、成年後見人は被後見人に代わって財産の管理や生活の支援を行います。
成年後見人には、親族に限らず、地域住民や弁護士、社会福祉士、法人などが選ばれることもあります。ただし、次のような人は成年後見人になることができません。
- 未成年者
- 成年後見人を解任されたことがある人
- 破産者で復権していない人
- 本人に対して訴訟を起こしている、または訴訟をしたことがある人、その配偶者・親子
- 行方不明の人
代理権が付与された保佐人・補助人
判断力が低下し、支援が必要な場合、保佐人や補助人が選ばれます。保佐人が選ばれた場合、支援を受ける本人は「被保佐人」と呼ばれ、補助人が選ばれた場合は「被補助人」と呼ばれます。
保佐人や補助人は、被保佐人や被補助人を支援するために、同意権や取消権、追認権を行使することが可能です。さらに、家庭裁判所が代理権を付与した場合、保佐人や補助人は本人に代わって法律行為を行うこともできます。
不在者財産管理人
不在者財産管理人は、不在者に代わって不動産などの財産を管理するために家庭裁判所から選任される法定代理人です。不在者とは、重病で長期間入院している人や行方不明者、または長期間居住地を離れていて帰宅の見通しが立たない人を指します。
不動産などの財産が長期間放置されると、窃盗や火災などのリスクが高まります。そのため、家庭裁判所に申し立てて、代わりに財産を管理する人を選ぶ必要があります。不在者財産管理人に選任されることができるのは、配偶者、相続人、債権者などの利害関係者や検察官です。
不在者財産管理人に選ばれると、不在者名義の財産を適切に管理し、財産の目録や収支報告書を作成します。また、これらの報告書を定期的に裁判所へ提出することも重要な役割の一つです。不在者財産管理人は、財産の管理だけでなく、財産分割が必要な場合や不在者が共有している物件を処分する際にも必要となります。
相続財産管理人
相続が発生した際、相続人が不明である場合や相続が放棄された場合に、相続財産の管理や相続人の調査を行う役割を担うのが相続財産管理人です。相続財産管理人がいることで、後から相続人が現れた場合でも、相続手続きをスムーズに進めることができます。
相続財産の管理者がいない場合、被相続人の債権者から損害賠償を求められる可能性があったり、管理が行き届かないことで他者からクレームを受けたりすることがあります。これを防ぐために、相続財産管理人が選任されるのです。
相続財産管理人には、被相続人の債権者、特定の受遺者、特別縁故者などの利害関係者や検察官がなれます。相続財産管理人の選任は家庭裁判所への申し立てによって行われます。
法定代理人を証明するための書類
本人の代わりに法定代理人が契約などの手続きを行う場合、法定代理人の照明が求められます。ここでは、法定代理人の種類ごとに証明ができる書類をご紹介します。
親権者の場合
親権者であることを証明するためには、未成年者の戸籍謄本や戸籍記載事項証明書が必要です。これらの書類には、未成年者の戸籍に親権者である両親の名前が記載されており、その記録に基づいて親権者であることが確認できます。
また、協議離婚した場合、戸籍の親族欄には親権者の名前だけでなく、親権者を定めた日や届出人の情報も記載されます。したがって、離婚によって片親が親権者となった場合でも、戸籍を通じて親権者であることを証明することが可能です。
未成年後見人の場合
2024年8月時点では、未成年後見人であることを証明するための専用の公的書類として、家庭裁判所が発行する審判書謄本があります。また、未成年者の戸籍にも、未成年後見人の氏名や住所などが記載されるため、未成年者の戸籍謄本や戸籍記載事項証明書を提示することで、未成年後見人であることを証明できます。
成年後見人、代理権が付与された保佐人・補助人の場合
成年後見人や代理権が付与された保佐人・補助人が家庭裁判所の審判によって選任されると、成年後見登記が行われます。この登記には、成年後見人や保佐人・補助人の住所や氏名、さらに保佐人・補助人に代理権が付与されたことなどが記録されます。そのため、この登記事項証明書は証明書類として使用することが可能です。
不在者財産管理人の場合
不在者財産管理人であることを証明するには、家庭裁判所が発行する審判書の謄本が必要です。不在者財産管理人は家庭裁判所の審判によって選ばれ、その際、誰がどの財産を管理するのかが記載された審判書が作成されます。この審判書は、家庭裁判所に審判書登記を申請することで証明書として利用できます。
相続財産管理人の場合
相続財産管理人も家庭裁判所によって選任されるため、選任された管理人の情報が記載された審判書が発行されます。この審判書は、不在者財産管理の場合と同様に、家庭裁判所に審判書登記を申請することで証明書として利用できます。
任意代理人と法定代理人の違い
任意代理人と法定代理人は、どちらも本人に代わって契約などの行為を行う人ですが、選ばれる方法や代理権の範囲、終了の条件、そして復代理人(代理権の一部またはすべてを行う人)を選べるかどうかに違いがあります。
法定代理人は、法律に基づいて裁判所が選任するのが一般的です。代理権の範囲も法律で定められており、本人や代理人が亡くなった場合、代理人が破産手続きに入った場合、または後見開始の審判を受けた場合などにその代理権が終了します。親権者の場合は、子どもが成人した時点でその権限が終わります。
一方、任意代理人は本人の意思によって選ばれます。代理権の範囲も当事者同士の合意によって柔軟に決められるため、ニーズに応じた代理が可能です。任意代理人の権限は、委任された事務が完了した時点で終了します。なお、任意後見人には、本人の生活や財産管理に関する代理権が与えられますが、法律行為に対する取消権や同意権は与えられません。
法定代理人が持つ権利
法定代理人には、以下の権利があります。
- 同意権
- 取消権
- 代理権
それぞれどのような権利なのかについて、解説します。
同意権
同意権とは、他人が行う行為に対して、それを認める意思を示す法律上の権限を指します。未成年者が法律行為を行う際には、原則として法定代理人の同意が必要です。成年後見人には同意権が付与されませんが、保佐人や補助人には同意権が与えられます。ただし、支援できる範囲には制限があります。
例えば、保佐人は以下のような重要な法律行為において同意権を行使することが可能です。
- 借金をすること
- 訴訟を起こすことや応じること
- 相続の承認や放棄をすること
- 不動産や重要な資産を売買すること
- 家屋の新築や大規模な改修を行うこと
裁判所の許可を得ることで、これら以外の行為についても同意権の範囲を拡大できます。
また、補助人の場合は支援範囲がさらに限定されており、同意権は特定の重要な事項に限られます。具体的な例としては、以下などです。
- 高額な買い物や契約を結ぶこと
- 不動産の賃貸借契約を締結すること
- 保証人になること
- 贈与を受けることや行うこと
- 遺産分割協議に参加すること
これらの行為について補助人の同意が必要かどうかは、本人の状況や必要性に応じて裁判所が個別に決定します。そのため、補助人が同意権を行使する範囲はケースバイケースで異なります。
取消権
取消権とは、本人が行った法律行為が本人にとって不利である場合に、その行為を取り消すことができる権利です。ただし、日常生活に関する行為については、この権利は行使できません。
成年後見人は、成年被後見人が締結した契約など、すべての法律行為に対して取消権を行使できます。一方、保佐人と補助人は、借金、訴訟、相続に関する決定や家屋の新築など、特定の法律行為に対して取消権を行使できます。保佐人については、家庭裁判所の許可があれば、取消権を行使できる範囲を拡大することも可能です。
代理権
代理権とは、本人に代わって代理人が意思表示を行い、契約などの法律行為を行う権利のことを指します。代理権が有効となるためには、次の条件を満たす必要があります。
- 代理権を持っていること
- 本人のために意思表示を行っていること
- そしてその行為が代理権の範囲内で行われていること
成年後見人であれば、本人の財産に関するすべての法律行為で代理権を行使できます。これには、本人名義の預貯金の取引、保険金の請求・受領、遺産分割などが含まれます。ただし、結婚や離婚、養子縁組などの身分行為には代理権を行使できません。
一方で、保佐人や補助人は、借金の管理、訴訟の対応、相続に関する決定、家屋の新築など、家庭裁判所が認めた範囲内で代理権を行使できます。
法定代理人が不動産売却を行うには?
法定代理人は、本人の代わりに不動産売却の契約締結が可能です。ここからは、本人が未成年のケースと成年被後見人のケースで不動産売却を行う方法をご紹介します。
未成年で不動産を売却したい場合
未成年者が相続や遺贈、贈与によって取得した不動産を売却するには、親権者や未成年後見人の同意と手続きが必要です。この場合、未成年者自身の同意は必要ありません。具体的な売却手続きには、以下の2つの方法があります。
【未成年者を売主として契約する場合】
未成年者が売主として売買契約書に署名・捺印し、さらに法定代理人が同じく署名・捺印を行います。
【法定代理人が売主として契約する場合】
法定代理人が売主となり、契約書に署名・捺印を行います。
通常、法定代理人が売主となる方法が、より手間がかからずスムーズに手続きを進められる方法です。この際、法定代理人であることを証明する書類の提出が求められます。
成年被後見人が不動産を売却したい場合
成年被後見人が不動産を売却する際、売却する不動産が居住用か非居住用かによって手続きが異なります。居住用不動産の売却手続きの流れは以下のとおりです。
- 不動産会社と媒介契約を締結する
- 売却活動を行い、買主と売買契約を締結する
- 家庭裁判所に申し立てて許可を得る
- 買主から売却代金を得て不動産を引き渡す
居住用不動産の売却は、成年被後見人の生活に大きな影響を与える可能性があるため、家庭裁判所の許可が必要です。もし家庭裁判所から許可が得られなければ、売買契約は無効となります。
一方、非居住用不動産の場合は基本的に家庭裁判所の許可を得る必要はなく、通常の不動産売却と同じ手続きで進めることができます。ただし、正当な理由なしに不動産を売却した場合、成年後見人としての義務に違反する恐れがあります。
正当な理由なしとは、以下のような状況です。
- 不動産の売却が成年被後見人の利益にならない
- 売却によって成年被後見人の生活が不安定になる恐れがある
- 売却の目的が成年後見人自身の利益を図るものである
このような状況での売却は、成年被後見人の利益を守る義務に反するため、成年後見人の責任が問われる可能性があります。
法定代理人が不動産売却を行う場合の注意点
法定代理人が不動産売却を行う場合、以下のように気をつけなければならないポイントがあります。
- 未成年者は親権者の同意がないと契約取消が可能になる
- 法定代理人から同意を得ていなくても契約を取り消せないケースもある
- 親に売却する場合は特別代理人の選任が必要になる
- 居住用不動産を売却する際の許可申請には時間がかかる
それぞれの注意点について解説します。
未成年者は親権者の同意がないと契約取消が可能になる
未成年者が自分の不動産を売却したい場合、親権者の同意が必要です。もし親権者の同意なしに契約を結んだ場合、親権者は後から契約を承認できますが、取り消すことも可能です。親権者が契約を取り消すと、未成年者が結んだ売買契約は無効になりますので、注意が必要です。
契約が取り消されると、売主は買主に売買代金を返金しなければなりません。ただし、民法では返金額は現存利益に限られるため、未成年者がすでにお金を使ってしまった場合、残っている金額しか返せない可能性があります。そのため、未成年者との取引は買主にとってリスクが高く、トラブルを避けるためにも、未成年者が契約を結ぶ際には法定代理人(親権者)の同意を得ることが重要です。
法定代理人から同意を得ていなくても契約を取り消せないケースもある
未成年者が法定代理人の同意なしに行った法律行為について、法定代理人にはその契約を取り消す権利があります。しかし、取り消しができない場合もあります。例えば、不動産の売買契約において、一定期間内に取り消しを行わなかった場合、その契約が追認されたと見なされ取り消しができなくなります。一般的には、1カ月以上経過すると追認されたと見なされることが多いです。
また、未成年者が婚姻した場合も、契約を取り消せない可能性があります。婚姻すると、社会生活に必要な判断能力が成熟していると見なされ、単独で法律行為を行うことが認められるためです。その結果、不動産の売買契約においても取消権を行使できなくなります。
親に売却する場合は特別代理人の選任が必要になる
未成年者が親に不動産を売却する場合、特別代理人の選任が必要になります。
通常、法定代理人は本人の利益を最優先に権利を行使しますが、両親が買主になる場合は利益が相反し、本来の役割を果たせません。そのため、家庭裁判所を通じて特別代理人を選任し、売買契約を結ぶ必要があります。特別代理人は信頼できる親族が選ばれることが一般的で、特別な資格や条件は求められません。
居住用不動産を売却する際の許可申請には時間がかかる
成年後見人が居住用不動産を売却する際には、通常よりも手続きに時間がかかることがあります。これは、売却によって本人に不利益が生じないよう、家庭裁判所の許可を事前に取得する必要があるためです。
この許可を得るまでには一定の時間が必要です。また、場合によっては許可が下りないこともあるため、売却を進める前に買主にこの点をしっかりと説明し、理解を得た上で契約を結ぶことが重要となります。
法定代理人でも不動産を売却することは可能!
親権者や未成年後見人、成年後見人といった法定代理人でも不動産を売却できます。ただし、売却には裁判所の許可が必要となる場合があり、買主にとってリスクが生じる可能性もあるため、不動産会社が売買仲介を行う際は慎重な対応が求められます。
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