賃貸借契約は、不動産を借りたり貸したりする際に欠かせない重要な契約です。この契約書には、物件の情報や契約期間、修繕の取り決めなど、貸主と借主の双方が理解しておくべきポイントが明記されています。契約書を適切に作成し、双方が合意した上で契約を結ぶことは、賃貸におけるトラブルを防ぐために欠かせません。
そこで今回は、賃貸契約の概要や種類、契約手続きの流れ、契約書に記載すべき事項についてわかりやすく解説します。不動産の仲介や管理業に携わる方は、ぜひ参考にしてみてください。
賃貸借契約とは?
住宅や事務所などの賃貸を行うのにあたっては、賃貸借契約に関する十分な理解が欠かせません。ここでは、契約の概要について解説します。
不動産を貸して対価を得る契約
賃貸借契約とは、貸主が不動産を借主に貸し、その対価として賃料を受け取る契約のことです。不動産を貸し借りする際、この契約を結ぶことで、双方の合意内容を明確にし、誤解やトラブルの防止に役立ちます。
契約書は、貸し借りの事実を客観的に証明し、契約内容を確認するために不可欠なものです。これはアパートやマンションなどの住宅だけでなく、オフィス、店舗などの事業用物件や土地にも適用されます。契約内容の確認と合意が、良好な貸し借り関係を築くための基盤となります。
使用賃借契約との違い
使用賃借契約は、無償でものを貸し出し、後に返還してもらうことを約束する契約です。同じ貸し借りに関する契約ではありますが、使用賃借は無償での提供に対して、賃貸借契約は有償であることが大きな違いです。
使用賃借契約は不動産に限らず、金銭や食料以外のあらゆるものの貸し借りに適用されます。ただし、ものの貸し借りに関する契約であることには変わりがないので、返還義務があり、不動産の場合は返還時に原状回復が必要です。
賃貸借契約の種類
不動産の賃貸借契約には、以下2つの種類があります。
- 普通賃貸借契約(普通借家契約)
- 定期賃貸借契約(定期借家契約)
それぞれの契約の特徴は以下のとおりです。
普通賃貸借契約(普通借家契約)
普通賃貸借契約は、契約期間が1年以上で設定されており、契約期間を更新できることが特徴です。契約期間は2年とするケースが一般的で、貸主と借主が合意した内容で継続的に不動産を賃貸借できます。
借主都合で解約する場合は、退去希望日の1~2カ月前までに申し出るのが一般的です。その一方で、貸主から解約の申し出をする際は6カ月前に行う必要があります。ただし、貸主の自己都合での一方的な解約の申し出はできないので注意が必要です。また、借主から契約更新を求められた場合、貸主はその申し出を原則拒否できません。拒否する場合は、正当な理由が必要になります。
定期賃貸借契約(定期借家契約)
定期賃貸借契約は、契約期間が終了したら満了となり、契約の更新が原則できないことが特徴です。借主が賃借の継続を申し出た場合、貸主の合意があればあらためて賃貸借契約を締結する必要があります。
定期賃貸借契約は、貸主が希望する契約期間で締結できることが貸主にとってのメリットです。契約期間は当事者同士で決めることができます。例えば、転勤や海外駐在などで不在の期間、一時的に家を貸し出したいという場合などに適しています。
借主が転勤や療養など、やむを得ない事情で退去する場合は、途中解約が認められています。ただし、途中解約は床面積200平方メートル未満の物件に限定されています。
普通賃貸借契約と定期賃貸借契約の比較
普通賃借契約と定期賃借契約は、契約期間や更新の有無以外にもさまざまな違いがあります。主な違いは以下のとおりです。
普通賃借契約 | 定期賃貸借 | |
---|---|---|
契約方法 | 書面と口頭のどちらでも可 | 書面の契約のみ※契約満了で契約終了を説明する書面の交付が必要 |
契約期間 | 1年以上 | 当事者で取り決め可能 |
更新の有無 | 可能 | 不可※貸主の合意があれば再契約可能 |
途中解約 | ・正当な事由を除いて、貸主からの申し出は原則不可・特約があれば借主から申し出は可能 | ・途中契約の特約があれば、貸主から申し出可能・床面積200平方メートル未満の物件を使用している借主で、やむを得ない事情があれば可能 |
賃料増減額の請求権 | 当事者は請求の権利が認められている※増額請求の場合、特約による排除は有効 | 当事者は請求の権利が認められている※増額・増減どちらも特約による排除は有効 |
定期賃貸借契約の場合、契約満了で契約が終了する際には、その旨を記した書面を契約書とは別に交付することが必要です。また、普通賃貸借契約は口頭でも締結可能ですが、トラブルを防ぐためにも書面で契約を締結するようにしましょう。
賃貸借契約締結の基本的な流れ
賃貸借契約を締結するまでの基本的な流れは以下のとおりです。
- 物件の紹介・内見の案内
- 入居申し込み・入居審査
- 重要事項説明・賃貸借契約の締結
契約締結までの一連の流れについて詳しくご紹介します。
1.物件の紹介・内見の案内
入居希望のお客さまからの問い合わせに応じて、物件を紹介します。希望条件を聞き、室内の設備や周辺施設など、写真や資料を提示しながら細かく紹介していきます。並行して、内見の準備も進めておきましょう。1日に何件も見学することが多いので、効率よく回れるようにルートを決めておきます。貸主に確認しないとわからない内容については確認し、素早く回答できるようにしましょう。
2.入居申し込み・入居審査
お客さまが入居希望した場合、賃貸契約の申し込みに進みます。入居申請書への個人情報の記入、源泉徴収票などの入居審査に必要な書類を提出してもらいます。連帯保証人がいる場合は、住民票や印鑑証明書の提出も必要です。
入居申し込みが完了すると、貸主もしくは不動産管理会社が書類審査を行います。審査にかかる目安は3~5日程度です。家賃保証会社を利用する場合は、保証会社が審査を行います。審査はいずれか1者のみが行うケースもあれば、3者すべてが行うケースもあります。
3.重要事項説明・賃貸借契約の締結
入居審査を通過すると、重要事項説明書を経て賃貸借契約を締結します。重要事項説明では、宅地建物取引士が契約者に対し、契約内容や特約について説明し、事前説明との相違の有無を確認してもらいます。
契約内容の不明点を解消した上で問題がなければ、重要事項説明書と賃貸借契約書の両方に署名と捺印をしてもらい、契約締結、引き渡しとなります。
賃貸借契約書に必要な主な項目
賃貸借契約書は、契約に関する不備や認識のズレを回避するために、さまざまな項目が設けられています。主に明記される項目は以下のとおりです。
- 対象物件の情報と使用目的
- 賃貸借期間
- 賃料等の項目
- 貸主や借主等の情報
- 連帯保証人・保証会社の情報
- 更新や違約金などの条文
- 途中解約に関する事項
- 修繕や原状回復に関する事項
- その他
各項目の詳細を見ていきましょう。
対象物件の情報と使用目的
どの物件が賃貸借契約の対象となるのかを示すために、物件の情報を明記します。主に記載する内容は以下のとおりです。
- 建物名称
- 所在地
- 構造や建物の種類(一戸建てや共同住宅など)
- 築年数
- 住戸部分の設備や間取り、面積
- 付属設備・施設
住居として賃借したものが勝手に店舗として使われてしまうといったことを防ぐためにも、不動産の使用目的も契約書で明確にしておくことが大切です。
賃貸借期間
「始期○年○月○日から」「終期○年○月○日」「○年○月間」といったように、賃貸借の契約期間を明記します。普通賃貸借契約の場合は1年以上で設定します。なお、借地借家法によって1年未満は期間の定めがないものと見なされ、借主がいつでも解約を要求できるので注意が必要です。1年以上の期間で設定すれば、特約や正当な事由がない限り途中解約ができなくなるため、貸主のリスクを抑えることができます。定期賃貸借契約であれば、当事者同士が合意した契約期間を記載します。
賃料等の項目
賃料に関する項目では、毎月の賃料だけではなく、共益費や敷金、駐車場や駐輪場などの使用料を、項目を分けてそれぞれの金額を明記します。
さらに、これらの支払期限と支払方法も明記します。口座振込の場合は、振込先の金融機関名や口座番号、名義人、手数料負担者は誰かなどの記載が必要です。現金での支払いは、持参先を記入します。
貸主や借主等の情報
貸主と借主を明確にするために、貸主および管理業者、借主および同居人の情報を記載する項目が必要です。貸主および管理業者の項目は、住所や氏名、電話番号、管理業者であれば登録番号も記載します。貸主や管理業者の情報を明記しておくことで、契約者はアクシデントやトラブルが起きた際の連絡先を把握できます。また、貸主と建物の所有者が異なる場合は、所有者の情報も明記しておくとよいでしょう。
借主および同居人の項目では、氏名や年齢、電話番号、同居人の氏名・年齢を明記します。借主と連絡が取れなくなった時のために、緊急時の連絡先や借主との関係性がわかる項目を設けておくよいでしょう。
連帯保証人・保証会社の情報
契約者本人から家賃が回収できなかった時のために、連帯保証人または保証会社に関する情報を記載した項目を設けておきます。連帯保証人の場合は、氏名や住所、連絡先の記載が必要です。保証会社の場合は、社名や所在地、電話番号、登録番号などを記載します。
更新や違約金などの条文
契約更新や解約、違約金、禁止事項、特約などを明記します。契約更新では、更新料や更新手数料の記載が必要です。また、解約については、解約通告期間を明記します。30日前が基本ですが、40日前や60日前に通告するケースもあります。解約時に違約金が発生する際は、その旨と金額の記載も必要です。他にも、ペットの飼育や楽器の演奏といった禁止事項および違反した場合の罰則、当事者同士で個別に取り決めた特約なども明記します。
途中解約に関する事項
借主がやむを得ない事情で退去するケースなどについては、途中解約に関する規定に明記します。また、家賃滞納や転貸など、契約解除に該当するケースも明記しておくようにしましょう。
なお、途中解約を認めない場合は、途中解約禁止の特約が必要となります。その際、違約金が発生する旨などを記載しておきます。
修繕や原状回復に関する事項
入居中の修繕や退去時の原状回復に関する規約も記載が必要です。部屋や設備の修繕が必要になった場合、誰がどのように修繕費を支払うのかを明記します。
原状回復については、入居前の状態に戻す義務があること、敷金で足りない部分は追加での支払いが生じることなどを明記しなければなりません。修繕費や原状回復費はトラブルになりやすいので、負担者の定めを契約書でしっかり明記し、合意を得るようにします。
その他
この他にも、造作買収請求権の放棄やトラブルが起きた場合の対応などを必要に応じて明記します。借地借家法では、借主が貸主の許可を得て建物への造作を行った場合、借主は貸主に造作の買取を求める権利があることを認めています。造作買収請求権の放棄とは、この権利を放棄する規約です。
また、家賃滞納や契約違反などのトラブルについて、その対応・対処方法についても記載します。例えば、訴訟に発展した場合の和解合意や協議解決の規定などが該当します。
賃貸借契約書の作成、契約締結時の注意点
不動産の賃貸借契約における契約書の作成や締結時のポイントは以下のとおりです。
- 強行法規に違反する特約を定めない
- 土地の賃貸では収入印紙が必要になる
- 電子契約の場合は締結の流れやルールを把握する
強行法規に違反する特約を定めない
借主との間でトラブルを避けるために、入居におけるルールや禁止行為を定めることは大切です。しかし例えば、貸主が要求すればいつでも途中解約できるといった特約は、借地借家法に違反するため認められません。こういったものを強行法規に違反する特約といいます。
強行法規は、法令に基づいた公的な秩序に関する規定のことです。強行法規の違反によって特約が無効にならないように、リーガルチェックを事前にしっかりと行うことが求められます。
土地の賃貸では収入印紙が必要
土地を賃貸する場合、賃貸借契約の際に印紙税が発生するため、契約書に収入印紙の貼り付けが必要です。例えば、駐車場として土地を貸す場合、土地の賃貸借契約となるので課税対象になります。しかし、駐車場のスペースに駐車することを認める契約や車庫の賃貸借などは、課税対象となりません。
土地の賃貸借契約にかかる印紙税額は、契約金額が1万円未満では非課税ですが、それ以上は金額によって変動します。
契約金額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
50万円以下 | 400円 |
100万円以下 | 1,000円 |
500万円以下 | 2,000円 |
1,000万円以下 | 1万円 |
5,000万円以下 | 2万円 |
1億円以下 | 6万円 |
5億円以下 | 10万円 |
10億円以下 | 20万円 |
50億円以下 | 40万円 |
50億円超 | 60万円 |
電子契約の場合は締結の流れやルールが異なる
2022年5月18日に賃貸借契約の電子契約が解禁されました。電子契約を導入する場合、契約締結の流れやルールを把握することが大切です。契約の大まかな流れは変わりませんが、重要事項説明書・契約書のアップロードや賃貸業者による電子署名、IT重説の実施などの工程が発生します。
また、電子署名法に則って契約を締結しなければなりません。本人が署名し、改変されていないことを証明できるように、信頼できる電子署名システムの導入が必要です。他にも電子帳簿保存法によって契約書のデータは最低でも7年間は保存しなければなりません。
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賃貸仲介業では賃貸借契約の内容を理解することが大切
賃貸借契約は、貸主と借主の間でトラブルを防ぐための大切な契約です。法律で定められた事項も含まれているため、契約書の作成には法的な規定に沿い、正確な内容を明記する必要があります。
賃貸仲介業に携わるなら、この契約の重要性や内容をしっかり理解することが求められます。契約書の作成や管理が煩雑に感じる場合は、『いい生活賃貸クラウド One』を活用するのも一つの方法です。詳しい情報はお気軽にお問い合わせください。