ビルメンテナンスは、建物の快適性と安全性を維持し、利用者が安心して利用できる空間を届ける大切な役割を持ちます。
この記事では、建築物の管理において重要なビルメンテナンスの目的や基本的な業務内容、ビルの寿命を伸ばす法定点検、専門の資格などについて解説します。ビルメンテナンスの重要性をわかりやすく紹介していますので、ビルの管理に携わる方や建物の管理に興味がある方はぜひ参考にしてみてください。
ビルメンテナンスとは?業務の目的
ビルメンテナンスは、オフィスビルをはじめ、マンションや商業施設、ホテル、病院などさまざまな建物の維持管理を手掛ける仕事です。建物内の設備や衛生面を管理し、利用者が安全かつ快適に利用できる建物空間を保つ重要な役割を担っています。建物の防災や安全性にも関わる仕事のため、利用者の命や健康に直結する業務です。
また、建物の所有者にとってもビルメンテナンスは重要です。建物の適切な管理は、不動産の資産性を高めることにもつながります。所有者の大切な資産・財産を守ることもビルメンテナンスの大きな目的の1つと言えるでしょう。
ビルメンテナンスの業務内容
ビルメンテナンスの業務は多岐にわたります。主に手掛ける業務は以下のとおりです。
- 掃除管理業務
- 衛生管理業務
- 設備管理業務
- 建物/設備保全業務
- 警備/防災業務
- その他業務
以下、ビルメンテナンスの業務内容について詳しく解説します。
掃除管理業務
掃除管理業務は、建物の美観を保ち、衛生的な環境を提供することを目的とした業務です。建築物内部清掃と建築物外部清掃の2つに大別されます。
内部清掃は、床や壁、天井、窓、家具といった建物内部の掃除を担います。近年は、感染症予防の観点から消毒や抗菌コーティングなどを実施するケースも増えているようです。
外部清掃は、外壁や高所の窓ガラス、敷地内や駐車場、屋上といった建物外部の清掃を担います。汚れやゴミを掃除するだけではなく、植栽の管理も外部清掃の一環です。
それぞれの清掃業務は、汚れの種類や建材・素材に合わせて、適切な掃除道具・掃除方法を選択しなければなりません。そのため、清掃に関する専門的な知識が求められます。
衛生管理業務
衛生管理業務は、快適な環境を提供することを目的に、建物の衛生面全般を管理するもので、4つの業務に分類されます。
- 空気環境管理業務
- 給水/排水管理業務
- 廃棄物処理業務
- ネズミ/害虫防除業務
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル衛生管理法)」で定められている一定基準を遵守し、点検や維持を行う必要があります。各業務の詳細は以下のとおりです。
【衛生管理】空気環境管理業務
ビル管理法の「建築物環境衛生管理基準」で定められたレベルに建物内の空気環境を保つ業務です。浮遊粉塵の量・一酸化炭素や二酸化炭素の含有率、温度などが細かく規定されており、特定建築物ではおおむね基準どおりになるように、定期的な測定と調整が必要です。
「建築物環境衛生管理基準」の基準を満たさない場合、行政措置や使用制限・使用停止などの罰則の対象になる可能性があります。なお、「延べ3,000㎡以上」の百貨店・事務所・店舗・ホテル・旅館などの用途に該当する建物が、空気環境測定が義務付けられている特定建築物となります。特定建築物に指定されていない建物であっても、快適で安全な空気環境を保つためには測定や維持管理が重要です。
【衛生管理】給水・排水管理業務
給水・排水管理は、建物内の上下水を管理する業務です。給水管理では、貯水槽掃除や定期的な水質検査などを行っています。
中でも重要なのが貯水槽の衛生管理です。貯水槽掃除を怠ると、内部にカビや雑菌が繁殖し、赤さびが沈殿する可能性があります。安全な生活水として使える状態を保つことが求められます。
排水管理の主な業務は、排水槽・排水管・浄化槽などの掃除や設備の保守管理です。排水管理を行うことで、排水設備からの悪臭や漏水、詰まりなどのトラブルを防ぐだけでなく、排水設備の寿命を延ばすことにもつながります。
【衛生管理】廃棄物処理業務
建物内で出た廃棄物を収集し、建物外に処分する業務です。テナントビルなどで排出される廃棄物は家庭で出るゴミとは異なり、自治体の処理施設に持ち込んだり、専門業者に収集・処理を委託しなければなりません。
廃棄物の中には、処分にあたって環境や人体に悪影響を与えるものがあります。廃棄物処理法で規定される汚泥や廃油、廃プラスチックなどの廃棄物の運搬・処理は許可業者に委託しなければなりません。未許可の業者に依頼すると、排出した側の事業主も罰則に問われる可能性があります。
【衛生管理】ネズミ・害虫防除業務
ネズミ・害虫防除業務は、ネズミや害虫の侵入防止や駆除などを行う業務です。ネズミやハエ、ゴキブリ、ノミ、ダニなどの害虫は健康被害を招き、建物の美観や快適性を損ねる要因にもなります。
特定建築物においては、6カ月ごとに生息調査を行い、ネズミや害虫の発生・生息場所、侵入経路を調べなければなりません。生息していると判断された場合は、駆除やその後の侵入対策も講じる必要があります。調査や駆除は建物の管理者の責任のもと、専門業者を通じて行われるのが一般的です。
設備管理業務
設備管理業務は、建物内に設置される以下の設備全般の運転保守を担う業務です。
- 電気通信設備:受変電設備、照明設備、非常用発電設備など
- 空気調和設備:空気調和装置、ボイラー、ダクト、送風機・排風機など
- 給水/排水設備:貯水槽・給水管・排水管・浄化槽など
- 消防用設備:消火設備、警報設備、避難設備など
- 昇降機設備:エレベーター、エスカレーター
これらの設備は建物を利用する際の安全性、快適性に大きく関わるため、常に正常に動作するように管理し続ける必要があります。近年は、ビル設備がシステム的に統括管理されているため、設備全体の知識・理解が欠かせません。
建物・設備保全業務
建物や設備の点検や整備を担う業務です。設備管理業務と共通する要素がありますが、建物・設備保全業務は、建築基準法で定められた定期点検・調査を実施して、長期にわたって建物を保全することが業務の目的となります。
定期検査では建物の構造や劣化具合をチェックすることで、故障・消耗箇所を把握し、対処していくことが求められます。
警備・防災業務
警備・防災業務は、建物と利用者の安全を守ることを目的にした業務です。警備業務では、見回りや監視カメラによるチェックで不審者の侵入を防ぐ、異常や危険をいち早くキャッチします。
防災業務では、火災報知機や防火シャッターなどの消防設備の作動点検や維持管理を行います。建物の管理だけでなく、防災センターでの監視、緊急対応などを行うことも大切な業務です。適切な管理による防災、ならびに発災時のスムーズな対応ができる体制を整備しておくことが求められます。
その他業務
近年は建物の長寿命化や省エネルギー化に伴い、ビルマネジメント業務や建物のエネルギー管理をビルメンテナンスに取り入れるケースが増えています。
ビルマネジメント業務は、建物や設備全体を総合的に管理・運用する業務です。収益の最大化に向けてスムーズな運営を目指すと同時に、適切な管理による資産価値の維持を目的としています。他にも、クレームの対応や空室対策、募集・契約業務、賃料の回収などさまざまな業務に対応します。
建物のエネルギー管理は、低炭素社会の実現に向けてCO2の排出量を抑制するために、既存の設備・システムを改善する取り組みです。
ビルの耐用年数はどのくらい?
ビルの耐用年数は構造ごとに異なります。ここでは、一般的なビルの耐用年数を構造別に確認しつつ、ビルメンテナンスの重要性について解説していきます。
RC造・SRC造:47~50年
RC(鉄筋コンクリート)造とSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造のビルの場合、税制上で定められる耐用年数は47~50年です。
なお、この場合の耐用年数は、建物の用途によって異なります。オフィスビルやテナントビルなどは50年ですが、住宅は47年です。
RC造やSRC造はコンクリートを強化するために、鉄筋や鉄骨を用いているため、強度が高く、比較的建物の寿命は長い傾向にあります。
重量鉄骨造:34~38年
重量鉄骨造のビルの場合、税制上で定められる耐用年数は34~38年です。RC造・SRC造と同じく建物の用途によって耐用年数は異なります。
それぞれの耐用年数は、オフィスビル・テナントビルなどが38年、住宅は34年です。
重量鉄骨造は、厚さ6mm以上の鋼材が使われた構造です。厚さ6mm未満の軽量鉄骨と比べると強度はありますが、RC造やSRC造ほどの強度はありません。
ビルメンテナンスで平均寿命は伸ばせる
ビルの構造ごとに法定耐用年数が決まっていますが、これはあくまでも税制上の基準であり、減価償却費を計算するための目安でしかありません。実際のビルの耐用年数はメンテナンス次第で変わります。
ビルメンテナンスを適切に行うことで、建物や設備は良好な状態を維持できます。
その一方で、管理が行き届かず、建物の劣化が進むと、安全性や快適性の確保が難しくなると同時に維持費がかさむといったことが考えられます。また、入居者が見つかりづらくなり、空室が増えるといったこともリスクと言えるでしょう。建物の平均寿命を延ばして資産価値を維持していくためには、長期的な視点でメンテナンスの計画を立てていくことが求められます。
ビルの法定点検の頻度
ビルの法定検査は、建物の適法性や安全の確保を目的とした大切なもので、建築基準法やビル管理法などの法律に基づいて、実施が義務付けられています。実施頻度は検査・調査内容ごとに異なります。
特定建物定期検査 | 1~3年に1回 |
建築設備定期検査 | 1年に1回 |
消防設備点検 | 1年に2回 |
昇降機設備点検 | 1年に1回 |
室内空気環境測定 | 2月に1回 |
飲料水水質検査 | 6カ月に1回 |
貯水槽清掃 | 1年に1回 |
排水槽清掃 | 1年に1回 |
電気設備精密点検 | 1年に1回 |
ボイラー性能検査 | 1年に1回 |
煤煙測定 | 1年に1回 |
冷凍機定期自主検査 | 1年に1回 |
ネズミ・害虫防除 | 6カ月に1回 |
基本的に法定検査は1年に1回の実施が必要です。また、一部点検・調査などは実施する月が決まっていることもあります。
ビルメンテナンスに関する資格
ビルメンテナンス業務には専門知識や技術が求められ、資格が必要なものも少なくありません。ビルメンテナンスに関する代表的な資格は、以下のとおりです。
- 第二種電気工事士
- 第三種冷凍機械責任者
- 危険物取扱者乙種4類
- 二級ボイラー技士
- 建築物環境衛生管理技術者
- 第三種電気主任技術者
- エネルギー管理士
各資格の概要や対応可能な業務内容についてご紹介します。
第二種電気工事士
第二種電気工事士は、建物内設備の電気工事を行う際に必要な国家資格です。有資格者は、600V以下で受電する場所の配線や電気設備の工事を行うことが可能です。、具体的には、照明や配線、エアコンの設置、コンセントの工事など幅広い電気工事を担うことができます。ビルメンテナンスでは、電気設備の保守管理が欠かせないため、重要度の高い資格の1つと言えるでしょう。
第三種冷凍機械責任者
第三種冷凍機械責任者は、冷凍機械や空調設備の管理に必要な国家資格です。有資格者は、冷凍機械や空調設備の点検や保守管理だけでなく、無資格者を監督することもできます。
一定規模を超える冷凍機械を設置する場合、有資格者を設置しなければなりません。設置が不要な場合でも、空調設備を適切に運転・保守管理する目的で設置するケースが多いです。
危険物取扱者乙種4類
危険物取扱者乙種4類は、乙4と呼ばれており、ガソリン・灯油・軽油・重油などを取り扱うことができます。
ビルのボイラーや非常用発電機は、軽油や重油が使われているケースもあるため、乙4の資格が必要になります。ビルメンテナンスを手掛ける企業によっては、乙4が採用条件となっているケースもあります。
二級ボイラー技士
二級ボイラー技士は、一定規模以上のボイラーの運転・維持管理が可能な資格です。主に温泉や大浴場、プールが設置されている施設で求められる資格です。
ボイラーは運用方法を誤ると爆発や大きな事故を招く危険性があります。二級ボイラー技士はボイラーの基礎知識から運転保守、法令まで幅広い知識が求められます。
建築物環境衛生管理技術者
建築物環境衛生管理技術者は通称ビル管理士と呼ばれている国家資格です。空気環境管理や水質管理など、建物の環境衛生管理に必要な知識を証明する資格です。
一定規模を超える建物では、ビル管理士の設置および定期的な点検・報告が義務付けられています。建築物環境衛生管理技術者は、ビルメンテナンスの最高責任者となるため、建物の維持管理計画の立案や計画の実行・指揮、測定検査、改善案の作成など、幅広い実務に携わります。
第三種電気主任技術者
第三種電気主任技術者は、電験三種とも呼ばれるもので、電圧5万ボルト未満の電気設備の工事や維持管理、運用の保安監督をするために必要な資格です。
工場や商業施設などに設置される電気設備は、法定点検の実施が義務付けられており、有資格者が保安監督を務める必要があります。
エネルギー管理士
エネルギー管理士は、事業所内のエネルギー消費量の監視や管理、改善を担う資格です。一定以上のエネルギーを使用する建物や一定規模のボイラーを設置する建物では選任の義務が生じます。
昨今では、経費削減や環境に関する規制などへの関心が高まっており、エネルギー管理士の需要も高まっています。
賃貸管理でも大切なビルメンテナンスの役割や業務を理解しよう
ビルメンテナンスは、建物やその周辺環境を適切に保ち、人々の安全を守るとともに、資産価値を維持・向上させる重要な役割を担っています。そのため、賃貸管理においても欠かせない業務の1つです。ビルやマンションなどの物件を管理する際には、ビルメンテナンスの具体的な業務内容や必要な資格について正しく理解しておくことが大切です。
さらに、賃貸管理業務を効率化したい場合は、『いい生活のクラウドSaaS』の活用を検討してみてはいかがでしょうか。賃貸管理におけるさまざまな課題を解決するサービスを提供していますので、ぜひお気軽にご相談ください。