不動産物件を管理するうえで、経年劣化、通常損耗、特別損耗の違いを正しく理解することは非常に重要です。これらを正しく把握しておくことで、入居者とのトラブルを未然に防ぎ、スムーズな管理業務が可能になります。
本記事では、経年劣化と通常損耗・特別損耗の違いをわかりやすく解説するとともに、経年劣化を見分けるポイントや修繕費の基準についても詳しくご紹介します。
経年劣化とは?
経年劣化とは、時間の経過に伴い、品質が徐々に低下していく現象を指します。雨風や紫外線、温度変化などの環境要因による劣化はもちろん、耐用年数を超えたことで発生する設備の故障も経年劣化に含まれます。
通常損耗との違い
通常損耗とは、入居者が通常の使用を続けた結果、生じてしまった損耗などを指します。たとえば、家具を設置した際に生じた床材の凹み、冷蔵庫を設置したことで生じたクロスの電気焼けなどは通常損耗に分類されます。
経年劣化と通常損耗は、いずれも生活する中で避けられない損耗にあたることから、入居者による修繕義務はなく、オーナーさんが修繕費用を負担します。
特別損耗との違い
特別損耗とは、入居者の故意や過失、または善管注意義務違反によって発生する損耗を指します。たとえば、室内での喫煙によって天井や壁紙にヤニの黄ばみやニオイがついた場合、これは入居者に原因がある特別損耗に該当します。この場合、修繕費は入居者が負担することが一般的です。
何年経過すると経年劣化になるのか?
経年劣化の進行速度は、環境や設備の耐久性、使用状況によって異なります。そのため、「何年経過すれば経年劣化と判断されるか」を一概に決めるのは難しいでしょう。
ただし、仕上げ材や設備にはそれぞれ耐用年数が定められており、この耐用年数を超えると経年劣化とみなされるケースが一般的です。たとえば、カーペットや畳、クロスの耐用年数は6年、トイレや洗面台などの給排水・衛生設備は15年とされています。
経年劣化を見分けるポイント
経年劣化を見分けるためのポイントは各箇所によって異なります。
- キッチン
- 浴室・トイレ
- 床(畳・フローリング)
- 壁(クロス)
- 玄関
- 建具(柱・ふすま・窓ガラスなど)
- その他設備
キッチン
キッチンはシンクの水垢や換気扇の油汚れなどが軽度な場合は、通常損耗と判断されます。また、パッキンの破損による水漏れなども経年劣化によるものと判断されるケースが多いです。その一方で、水まわりや換気扇などの掃除を怠っていた場合は特別損耗と判断されます。
浴室・トイレ
汚れや水垢、トイレの黄ばみなど、日頃から掃除をしていても発生する汚れは、経年劣化や通常損耗とみなされます。ただし、浴室に設置された鏡の水垢については、定期的に掃除していたとしても、汚れがひどい場合は入居者負担で交換が必要になることがあります。
床(畳・フローリング)
重量のある家具や家電を置いたことで生じた床の凹みは、通常損耗に該当します。日常生活でついた細かい傷も同様です。また、窓からの紫外線による畳の日焼けやフローリングの色褪せも、経年劣化とみなされます。
一方で、引っ越しの際にできた大きな傷や、調味料をこぼして放置したことで生じたシミは、特別損耗に該当します。
壁(クロス)
床と同様に、日焼けや家具の配置による変色は、経年劣化に分類されます。また、画鋲やビスなどによる小さな穴は、通常損耗に該当します。
ただし、小さな穴ではなく、下地の石膏ボードまで達するような大きな穴は特別損耗とされ、入居者が修繕費を負担することになるため注意しておきましょう。
玄関
玄関ドアの軽い傷や汚れは通常損耗に該当します。また、ドアの外側の塗装はがれなどは、雨風の影響を受けやすいため、経年劣化とみなされます。
一方で、通常の使用では生じない破損や凹みがある場合は、特別損耗に該当します。玄関ドアに大きな傷がついた場合、ペイント補修や塗装が必要になりますが、特別損耗と判断される場合は修繕費の一部を入居者に請求することも可能です。
建具(柱・ふすま・窓ガラスなど)
通常使用の範囲で建具にできた跡や変色、傷みは、すべて通常損耗に該当します。また、自然に発生した編み入りガラスの亀裂や、地震によるガラスの破損も通常損耗とみなされます。
一方、周囲との温度差による熱割れは、原因によって判断が異なるため注意が必要です。自然に発生した場合は経年劣化に該当しますが、エアコンやドライヤーの温風が当たったことで生じた場合は特別損耗とされることがあります。
その他設備
エアコンや給湯器などが経年劣化や通常損耗によって故障した場合、その修繕費は入居者ではなくオーナーが負担します。機器の寿命による故障は通常損耗に該当しますが、通常とは異なる使い方による故障は特別損耗とみなされる可能性があるので注意しておきましょう。
また、鍵を紛失した場合は、経過年数に関係なく交換費用を入居者に請求できます。紛失時にはシリンダーの交換費用も含め、入居者負担となります。
オーナーが経年劣化かどうか迷った時の解決方法
オーナーが経年劣化かどうか迷った場合、解決方法として以下の2つが挙げられます。
- 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を確認する
- 不動産管理会社に問い合わせる
それぞれの解決方法について詳しくご紹介しましょう。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を確認する
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にして、経年劣化かどうかを判断します。
このガイドラインには、物件の状況や損耗の状態を確認するためのリストが含まれており、入居時や退去時にチェックすべき箇所を確認するのに役立ちます。また、事例や裁判の判例も掲載されているため、該当するケースがないかを調べることが可能です。さらに、原状回復義務や負担範囲に関する考え方も詳しく解説されています。
不動産管理会社に問い合わせる
ガイドラインの内容は膨大で、すべてを読み込むのが難しい場合は、不動産管理会社に問い合わせるのも一つの方法です。
管理会社に相談することで、不明点の判断だけでなく、賃貸借契約に基づく特約が原状回復の対象に該当するかどうかも確認できます。また、過去の管理経験をもとに、経年劣化かどうかの適切な判断を得られる場合もあります。
経年劣化と原状回復義務について
2020年4月1日の民法改正により、入居者の原状回復義務が明確化されました。これにより、通常損耗と特別損耗が区別され、入居者が負担するべきか、オーナーが負担するべきかがよりわかりやすくなりました。この負担範囲の明確化によって、トラブルの防止にもつながっています。
また、耐用年数を超えた設備であっても、入居者の故意や過失によって修繕工事が必要と判断された場合は、その施工費用の一部を入居者が負担することになります。賃貸物件は他人から借りているものであるため、入居者には善管注意義務があります。そのため、耐用年数に関係なく特別損耗に該当する場合は、入居者側も修繕費を負担する必要があることを理解しておきましょう。
原状回復費用の相場
入居者が退去した後、次の入居者が気持ち良く入居できるようにするために原状回復を行います。その際、どれくらいの費用がかかるのでしょうか?ここでは、原状回復費用の相場についてご紹介します。
原状回復費用の工事内容別相場
原状回復費用の相場は工事内容によって異なります。主な工事内容と原状回復費用の相場は以下のとおりです。
工事内容 | 費用相場 |
---|---|
壁・天井の穴補修 | 約1万~3万円/1か所 |
フローリングの汚れ除去 | 約1万円/1か所 |
クロスの張り替え | 約1,000~2,000円/1平方メートルあたり |
フローリングの張り替え | 約8,000円/1平方メートルあたり |
カーペットの張り替え | 約3,000円/1平方メートルあたり |
畳の張り替え | 約6,000円/1畳あたり |
トイレの水垢・カビ除去 | 約5,000~1万円 |
浴室の水垢・カビ除去 | 約5,000~2万円 |
キッチンまわりの汚れ除去 | 約1万~25,000円 |
エアコンのクリーニング | 約8,000~12,000円 |
換気扇のクリーニング | 約12,000~16,000円 |
鍵交換 | 約15,000~35,000円 |
これらの金額はあくまでも目安となるため、実際にどれくらいかかるかは修繕する箇所や状態、地域によっても異なります。
原状回復費用の回収方法
原状回復費用は、基本的に敷金から差し引いて対応します。通常、家賃1か月分を敷金として入居時に預かり、その中から原状回復費用を充当し、残額があれば返金されます。ただし、敷金だけでは費用を賄えないケースも考えられるでしょう。
その場合、入居者に追加で支払いを求める必要があります。しかし、この際「敷金を払ったのに、なぜ追加請求されるのか」や「故意ではなく通常使用による傷だ」といった反論を受けることがあるかもしれません。こうしたトラブルを防ぐためにも、賃貸借契約書に原状回復費用の回収方法を明記しておくことが重要です。
敷金なし物件の場合は、入居者に請求することになる
賃貸物件の中には、入居時に敷金を支払わなくても良い「敷金なし物件」があります。この場合、敷金の代わりに原状回復特約を設け、退去時にハウスクリーニング代や修繕費を請求するのが一般的です。具体的な費用や条件は、契約時の話し合いで決定されます。
経年劣化による破損は修繕費に計上できる?
経年劣化による破損や故障などは、オーナーの修繕費用負担となりますが、この修繕費を経費として計上することはできるのでしょうか?ここでは、経費として計上できるケース・できないケースについてご紹介します。
経費計上できるケース
経年劣化による破損は基本的に修繕費として計上できます。たとえば、以下のようなケースです。
- 劣化したクロスや畳の張り替え費用
- 雨漏りしている屋根の補修費用
- 経年劣化で機能が低下または故障した給湯器の交換費用
- 剥がれや耐汚性能などが落ちた外壁の塗り替え費用
修繕費として計上できるのは、いずれも原状回復や維持管理を目的とした費用に限られます。また、自然災害などが原因で破損した場合も修繕費として計上することが可能です。
経費計上できないケース
一方で、修繕費として計上できないケースもあるので注意してください。たとえば、機能性・資産性向上を目的とした工事は、資本的支出に区分されます。具体的には以下のようなケースです。
- 従前にはなかった設備を新設するための費用
- リフォームによる模様替えや間取り変更などの改装にかかった費用
- 以前使用していた給湯器からグレードの高い給湯器への交換費用
- 従前より耐久性の高い外壁塗料を使用した場合の塗り替え費用
修繕対応・原状回復工事なども一元管理できる『いい生活賃貸管理クラウド』
賃貸物件の管理を行う中で、入居者が退去する際には必ず退去立会いや敷金の精算、原状回復工事賃貸物件の管理では、入居者が退去する際に退去立会いや敷金の精算、原状回復工事の対応などが必要となります。また、入居時の管理業務を含めると、その業務量は非常に多くなり、対応が不十分になることもあります。こうした幅広い賃貸管理業務を効率的に行うには、情報を一元管理できるクラウドシステムの導入がおすすめです。
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経年劣化・通常損耗・特別損耗の範囲を理解しておこう
今回は、経年劣化とは何か、通常損耗・特別損耗との違いなどをご紹介しました。設備の経年劣化、もしくは通常損耗・特別損耗によって、修繕費の負担者が変わります。そのため、原状回復費用をめぐってトラブルに発展するケースも少なくありません。経年劣化や通常損耗・特別損耗の範囲を正しく理解し、賃貸借契約書には必ず原状回復について明記することが大切です。
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