不動産取引では宅建業法に基づいて「37条書面」「35条書面」が交付されます。この書類はいずれも買主と売主、貸主と借主の双方を保護するなど、重要な役割を持つ書類です。
今回は、不動産取引に欠かせない37条書面・35条書面について詳しく解説していきます。また、法改正による電子化のメリットもご紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
「37条書面」の特徴と重要性
まずは37条書面の特徴と重要性についてご紹介します。また、不動産取引で37条書面の交付を怠った場合の罰則についてもあわせて解説します。
37条書面とは?
37条書面とは、宅建業者が不動産取引に関与し、契約が成立した際に交付する書面です。宅建業法の37条に基づいて交付するため、37条書面と呼ばれています。売買契約や交換、宅地・建物の貸借でも交付が必要です。
宅建業者が当事者または代理で契約を締結した際はもちろんのこと、媒介契約が成立した際にも37条書面を交付します。当事者または代理で契約を締結した場合は、契約の相手方や代理を依頼した人に対して、媒介契約の場合は、各当事者に対して交付しなくてはなりません。
交付する書面には宅建業法で定められた項目を記載し、なおかつ宅地建物取引士の記名が必要です。契約が成立したら遅滞なく作成し、記載事項を周知させなくてはいけないことが宅建業法で定められています。
37条書面の交付を怠るとどうなる?
契約書に以下で説明する記載事項が網羅されていれば37条書面を交付しなくても問題ありません。しかし、そうでない場合に交付を怠ると監督官庁から指示処分や業務停止処分などが下される可能性があります。情状が重いと判断されれば、免許取消処分が課せられる場合もあるでしょう。
さらに、行為者には50万円以下の罰金などが課せられます。両罰規定として法人にも罰金が処される可能性もありますので、注意が必要です。
37条書面に記載する項目
37条書面に記載する項目は、主に以下の2種類に分かれます。
- 絶対的記載事項
- 相対的記載事項
以下、各記載事項について解説します。
絶対的記載事項
絶対的記載事項は37条書面に必ず記載しなくてはならない項目です。主に以下の項目が挙げられます。
- 当事者の氏名、住所
- 宅地建物を特定するのに必要な事項(所在・地番・構造など)
- 既存建物の場合、構造耐力上主要な部分などの状況について、当事者双方が確認した事項(インペクション(建物状況調査)に関する内容)
- 代金や交換差金の額、支払い時期、支払い方法
- 宅地または建物の引き渡し時期
- 移転登記の申請時期
売買契約と賃貸借契約では、絶対的記載事項の内容が若干異なります。売買契約では移転登記の申請時期を記載する必要がありますが、賃貸借契約だと項目自体が不要です。また、建物の構造上必要な部分などの状況で当事者双方が確認した事項も不要となります。
相対的記載事項
相対的記載事項は該当する契約の中で、とくに関連性がないものであれば記載しなくても問題ありません。主な項目は以下のとおりです。
- 代金や交換差金、借賃以外に支払う金銭の額、授受時期、授受目的
- 契約解除に関する内容
- 損害賠償額の予定、違約金に関する内容
- 天災やその他不可抗力による損害負担(危険負担)に関する内容
- ローンのあっせんに関する内容
- 契約内容不適合担保責任や補償保険契約などの措置内容
- 宅地建物にかかる租税公課の負担に関する内容
賃貸借契約の場合、ローンのあっせんや契約内容不適合担保責任、租税公課の負担といった項目はすべて不要となります。
「35条書面」の特徴と重要性
次に35条書面の特徴と重要性についてご紹介していきます。
35条書面とは?
35条書面とは、不動産取引において重要な説明事項が記載された書面(重要事項説明書)を指します。37条書面と同様に、宅建業法35条に基づいて交付することから35条書面といわれています。
35条書面は不動産取引の契約が成立する前に交付し、その内容を説明することが義務付けられています。説明する場所はとくに決まっていませんが、書面に宅地建物取引士の記名があること、なおかつ宅建取引士証を相手に提示した上で説明することが求められます。
重要事項説明の役割
重要事項説明は買主や借主を保護する目的で行われるものです。買主や借主には不動産の知識・経験が不十分であることが一般的なため、高額な不動産取引における消費者保護の観点から重要なプロセスと言えるでしょう。また、取引内容や注意点について十分な説明を行っておくことで、「聞いていない」「そんな話はしていない」といったトラブル回避にもつながります。
ただし、重要事項説明が不要になる場合もあります。たとえば、仲介会社を間に入れずに個人間で不動産売買を行った場合などです。個人間での不動産売買は当事者同士での契約となるため、35条書面の交付も不要となりますが、トラブルになることも少なくないので、仲介会社を間に入れて重要事項説明を行ってもらった方が安心と言えるでしょう。
宅建業法35条を違反した場合の処分内容
重要事項説明を宅地建物取引士が行うことは宅建業法35条で定められています。しかし、これに違反すると37条書面と同様に、重い処分が科せられます。たとえば、重要事項説明の際に宅建取引士証を提示しなかった場合は、提示義務違反として10万円以下の過料が科せられます。
また、相手が不動産取引によって不利益を被ってしまうことを知っていながら、故意に説明しなかった場合には、告知義務違反として2年以下の懲役または300万円以下の罰金が課せられる可能性があります。また、わざとではなかったとしても、説明責任を果たしていない場合は説明義務違反になります。ただし、適切な調査を行っていると証明できた場合、それでも気付けなかったケースでは処罰されることはありません。
35条書面に記載する項目
35条書面に記載する項目は、以下のとおりです。
- 物件に関する権利関係
- 物件に関する権利制限内容
- 物件の属性
- 取引条件(契約上の権利義務関係)
- 取引にあたって宅建業者が講じる措置
- 区分所有建物の場合
それぞれの項目について、どういった内容なのか解説していきます。
物件に関する権利関係
物件に関する権利関係は、登記された権利関係や私道に関する負担などを記載する項目です。主に建物に関する法的な情報を記載します。賃貸借の代理・媒介に限られますが、定期借地権または高齢者居住法の適用を受ける場合に説明が必要です。
宅地の売買契約・賃貸借契約、建物の売買契約では明示が必要となりますが、建物の賃貸借契約では私道に関する負担、定期借地権または高齢者居住法の適用を受ける場合などは記載しなくても問題ありません。
物件に関する権利制限内容
都市計画法や建築基準法などの法令に基づき、権利制限を受けている内容について記載する項目です。たとえば、取引の対象となる土地にはどのような建物が建てられるのか、建ぺい率や容積率はどの程度かなどを記載します。なお、用途やその他利用に関する制限事項などは、賃貸借契約のみ記載が必要です。一方、法令に基づく権利制限の概要については、建物の賃貸借契約においては記載が不要となります。
国土交通省のホームページでは、重要事項説明の各法令に基づく制限などの概要をまとめたページが用意されていますので、書面を作成する際に確認すると良いでしょう。
物件の属性
施設の整備状況や建物の構造、瑕疵担保責任、防災区域内かどうかなど、物件が持つ属性についても記載する必要があります。たとえば、飲用水や電気、ガスの供給施設や排水施設の整備状況については、直ちに利用できる施設と施設の整備予定年月日、整備に関する特別負担の有無や金額などを記載します。
未完成物件の場合、宅地造成や建物の施工が完了した際の形状・構造などを記載する必要があります。宅地は形状や構造だけでなく、宅地に接している道路の幅員や構造なども記載が必要です。建物も形状や構造以外に内装・外装の構造・仕上げ、設置する設備とその構造なども書面に記載します。
取引条件(契約上の権利義務関係)
代金以外に授受される金額や契約解除、違約金に関することなどを記載する項目です。契約更新または契約終了時の金銭の精算や、建物の取り壊しに関することは賃貸借契約のみ説明が必要です。
代金以外に授受される金額とは、たとえば、固定資産税や都市計画税など税金の精算などが挙げられます。また、対象の建物がマンションだった場合は管理費・修繕積立金などの精算が該当します。収益物件の場合、借主が支払う賃料も精算対象です。
取引にあたって宅建業者が講じる措置
手付金や支払金または預り金における保全措置の概要、金銭の貸借に関するあっせん、瑕疵担保責任の履行で講ずる措置などを記載する項目です。不動産会社・宅建業者が売主となる売買契約においては、手付金などが一定額を超えると保全措置を講じる必要が生じます。その場合、保全措置を行う方法や、保全措置を行う期間などを記載します。
区分所有建物の場合
契約を行う建物が区分所有だった場合、敷地に関する権利の種類や共用部・専有部の規約、専用使用権に関する規約などの記載も必要です。建物のさまざまな規約に加え、管理費用の金額やマンション管理の委託先、建物の維持・修繕の実施状況の記録も記載します。
37条書面・35条書面の主な違い
37条書面と35条書面の主な違いとして、書面を交付するタイミングが挙げられます。37条書面は契約締結時に取り交わすため、契約締結の段階までに交付する必要があります。一方、35条書面は契約を成立する前の段階で重要事項説明を行う必要があり、それまでに35条書面を用意しておかなくてはなりません。
また、35条書面は宅建取引士証を提示する義務が宅建業法で定められていますが、37条書面は相手から請求された場合に提示をする必要はあるものの、法律で義務付けられているわけではありません。
宅建業法の改正で電磁的方法による書面交付が可能に
2022年5月18日に宅建業法等の改正が行われ、電磁的方法によって37条書面・35条書面を交付することが可能になりました。ここでは、改正の内容について詳しくご紹介します。
37条書面・35条書面などの電子化が認められる
37条書面と35条書面などは元々紙媒体で作成・交付するものでしたが、宅建業法の改正によって電子化が認められました。依頼者の承諾を得れば電磁的方法での交付が可能となります。
宅地建物取引士による押印義務の廃止
37条書面と35条書面は交付する際に宅地建物取引士による押印が義務付けられていました。しかし、宅建業法等の改正によって押印義務は廃止となり、記名するだけで交付できるようになり、よりスムーズな不動産取引が可能になっています。記名といっても直接署名は不要で、氏名の印字や電磁的記録による交付が可能です。
電子契約に移行するメリット
紙媒体で交付していた37条書面と35条書面を電子契約に移行する場合、以下のメリットがあります。
- 紙代や郵送費用などのコストを削減できる
- 印紙税を納付せずに済む
- 保管スペースが不要になる
紙代や郵送費用などのコストを削減できる
紙の契約書を交付する場合、紙代やインク代が発生していました。また、書面を郵送したい場合は郵送代も必要です。しかし、電子契約に移行することで紙代やインク代はもちろん、郵送費用も不要となります。
1回の契約だけで見れば、これらの費用はそれほど大きいものではありません。しかし、不動産契約を何度も行っていればその分費用もかさんでくるでしょう。
印紙税を納付せずに済む
取引金額が高額になると金額に応じて収入印紙を契約書に貼付する必要があります。しかし、電子契約であれば収入印紙の貼付は不要です。
たとえば、不動産売買契約書を作成し、契約書に記載されている金額が1,000万円だった場合、印紙税額は1通または1冊につき2万円です。不動産の譲渡や建設工事の請負に関する契約書は、2027年3月31日まで印紙税の軽減措置が適応され、上記の場合は印紙税額は1万円となります。1通につき1万円ではあるものの、取引の数が増えれば印紙税の負担は相応のものになるはずです。
保管スペースが不要になる
重要な書類は一定期間保管しておく必要があるため、不動産取引の数が増えれば増えるほどスペースが必要になります。しかし、電子契約であればデータで保管するため、物理的な保管スペースがなくても問題はありません。
また、紙媒体で保管する際はファイリングに手間がかかりますが、電子契約であればそのような手間もありません。
不動産取引において37条書面・35条書面は必要不可欠!
今回は37条書面・35条書面の特徴と役割、さらに電子化が認められたことや電子契約に移行するメリットをご紹介しました。37条書面と35条書面はいずれも不動産取引に欠かせない書類です。
また、2022年の宅建業法によって書面の電子化が可能になりました。電子契約にも対応できる体制を構築するなら、クラウド上で書面のデータ管理も行えるシステムの導入がおすすめです。
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