賃貸物件を貸し出す際には、借主との間で賃貸借契約書を作成するのが一般的です。賃貸経営を成功させるためには、この契約書の内容をしっかり理解しておくことが重要となります。
そこで今回は、賃貸借契約書の基本的な概要、記載すべき内容、そして作成時の注意点について解説します。これから賃貸経営を始めようと考えている方にとって、役立つ情報が満載ですので、ぜひ参考にしてみてください。
賃貸借契約書とは
賃貸借契約書は、物件を貸し借りする際に必要となる書類です。ここでは、賃貸借契約書の基本的な概要や目的、そして重要事項説明書との違いについて解説します。
物件を借りる際に必要な契約書
賃貸借契約書とは、不動産を貸す人(貸主)と借りる人(借主)の間で結ばれる契約書のことです。不動産を借りる際には、この契約書を作成するのが一般的です。契約書には、不動産の場所や広さ、契約期間、家賃、管理費などの詳細が記載されています。
賃貸借契約書を結ぶことで、貸主と借主には以下のような義務が発生します。
【貸主】
- 借主に目的物の使用や収益をさせること
- 目的物が壊れたら修繕すること
【借主】
- 貸主に賃料を支払うこと
- 目的物を返還する時は元の状態に戻すこと
賃貸借契約書の目的
賃貸契約は口約束でも成立しますが、契約書を作成することは非常に重要です。口約束だけでは「言った」「言わない」のトラブルや、認識の違いから問題が生じることがあります。これを防ぐためにも、契約書を作成することが双方の立場を守る手段となるでしょう。
貸主と借主の双方が契約内容に合意した場合、その内容を基に賃貸借契約書を作成します。契約書には双方が署名・捺印し、それぞれ1部ずつ保管するようにしましょう。
また、契約の際には住民票、収入証明書、保証人の同意書などが必要になる場合があります。これらの書類は、必要に応じて事前に準備しておくとスムーズです。
重要事項説明書との違い
賃貸契約を結ぶ際には、重要事項説明書も利用されますが、これは賃貸借契約書とは異なるものです。重要事項説明書には、物件の詳細や解約条件、違約金など、契約を結ぶ際に重要な情報が記載されています。
重要事項説明は、不動産の仲介を行う企業に義務付けられており、説明を行うのは宅地建物取引士です。
借主は契約を結ぶ前に重要事項説明書をよく読み、内容を理解した上で賃貸契約を結びます。内容を理解したことを示すために署名や捺印を行いますが、これが直接契約に結びつくわけではありません。
賃貸借契約書は貸主と借主が取り決めた内容を記載したもので、物件の所在地や賃料など基本的な情報が含まれています。一方、重要事項説明書は不動産会社が借主に交付するもので、契約前の判断材料となる資料です。賃貸借契約書は契約後のトラブルを防ぐためのものであり、両者の目的が異なります。
重要事項説明書については以下の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
賃貸借契約書に記載すべき内容
賃貸借契約書には、多くの重要な事項が含まれています。適切に契約を結ぶためには、どのような内容が記載されるべきかを理解しておくことが重要です。以下では、賃貸借契約書に記載すべき具体的な内容について解説します。
賃貸借の目的物
賃貸借の目的物とは、賃貸契約の対象となる不動産のことを指します。この部分では、建物の名前、所在地、部屋番号、利用可能な設備などを記載する必要があります。
とくに集合住宅の場合、住所や建物の名称だけでは特定が難しいため、部屋番号も必ず記載しましょう。部屋番号まで明記することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
使用する目的
賃貸物件には居住用と事業用があります。そのため、契約書には使用目的を具体的に記載することが重要です。例えば、「飲食店経営のため」や「事務所として利用するため」といった具体的な使用目的を定めることで、目的外使用によるトラブルを防ぐことができます。
これは借主側にとっても重要です。賃貸物件の使用目的が自身の希望と一致しているかを確認することで、後々の問題を避けることができます。貸主と借主の間で誤解が生じないよう、契約書には使用目的を明確に記載しましょう。
契約期間
普通建物賃貸借契約を結ぶ際は、契約期間を1年以上に設定する必要があります。また、普通建物賃貸借契約は原則として自動更新され、貸主は正当な理由がない限り、契約の更新を拒むことはできません。
さらに、更新料を設定する場合は、契約書に「更新時には賃料の1カ月分を更新料として支払うこと」などと具体的に記載する必要があります。
賃料や管理費について
賃貸借契約書には、賃料や管理費の金額、支払期限、支払方法も明確に記載する必要があります。また、賃料の増減が発生する可能性についても記載しておくと良いでしょう。通常の建物賃貸借契約では、貸主と借主の双方に賃料の増減を請求する権利が認められています。しかし、これを契約書に明記していないとトラブルの原因となることがあります。
支払方法に関しては、具体的な支店名や口座番号を契約書に記載する場合もありますが、「指定する金融機関の口座」といった一般的な記載でも問題ありません。
家賃の滞納について
借主が家賃を滞納した場合の対応方法も、賃貸借契約書に記載しておく必要があります。例えば、「家賃を○カ月以上滞納した場合、催告なしに契約を解除できる」と明記するなどです。また、記載した期間より短い滞納であっても、繰り返し滞納が発生した場合は信頼関係が損なわれたとみなし、契約解除が可能である旨の追加もできます。
敷金や礼金
賃貸契約の際に敷金や礼金の支払いを求める場合、その金額と取扱方法を契約書に明記する必要があります。地域によって相場が異なるため、地域の状況に応じた金額を設定することが重要です。
また、敷金と礼金の違いについても契約書に記載しておくと、借主の理解が深まります。敷金は契約終了時に返還される保証金である一方、礼金は貸主への謝礼であり、原則として返金されません。また、保証金は敷金と似ていますが、返金されない場合があることもあります。
このように詳細な説明を記載することで、借主に安心感を与え、トラブルを未然に防ぐことができます。
貸主や管理会社の情報
賃貸借契約書には、緊急時の連絡先を含めて貸主や管理会社の情報を記載することも重要です。これにより、借主は万が一の際にも安心して対処できるでしょう。いつでも連絡がとれる電話番号を明記しておくことが理想的です。
また、トラブルが発生した場合の連絡先と、契約に関する相談の連絡先が異なる場合は、その違いを借主にしっかりと伝える必要があります。
禁止事項
賃貸借契約書には、契約する物件に関する禁止事項も記載されています。具体的には、以下の行為などです。
- 目的外の用途で利用する
- ペットを飼育する
- 転貸する
- 他の入居者に迷惑をかける行動(騒音など)をとる
- 1人用物件で複数人が入居する
- 石油ストーブやたばこなど火事の原因になるものを使用する
修繕について
賃貸借契約書には、物件や設備に異常が発生した場合、その修繕費用を誰が負担するかも記載されています。一般的には、物件を適切に使用するために必要な修繕費用は貸主が負担します。具体的には、共有部分の修繕費用は貸主が基本的に負担し、居室内の修繕費用は借主が負担すると覚えておけば問題ありません。
原状回復
原状回復とは、賃貸契約が終了し借主が退去する際に、物件を借りる前の状態に戻して貸主に返す義務のことを指します。賃貸契約では、この原状回復に関するトラブルが多いため、どの範囲を借主の負担とするのかを明確に定めておくことが重要です。契約書で原状回復について詳しく規定し、契約時に貸主と借主がしっかり確認するようにしましょう。
居住用の賃貸契約の場合は、国土交通省が提供する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にするのがおすすめです。このガイドラインには、トラブルを未然に防ぐための重要なポイントが記載されています。ガイドラインに反する内容で借主に過度な負担をかける特約が設けられている場合、その特約は無効となる可能性があるため注意が必要です。
その他特約事項
これまで説明した項目に加えて、契約にはさらに特別な取り決めが含まれることがあります。具体的には、次のような内容が考えられます。
- 追加保証人:賃借人が追加で保証人を立てられるか、またその条件はどうなっているか
- 借主のプライバシーの関する取り決め:借主の個人情報の取り扱いについて
- 家賃滞納の対処法:家賃などの支払いが遅れた場合の取り扱いについて
- 借主が違反した場合の罰則:借主が契約に反した場合の罰則や追加の賃料・損害賠償について
- その他当事者間で合意した内容:契約に関する特別な条件や取り決めについて
など
賃貸借契約書のテンプレートはダウンロードすることが可能
賃貸借契約書を作成したい場合、不動産関連団体や協会のホームページからテンプレートをダウンロードできます。ただし、すべての賃貸契約に適用できるわけではないため、内容をしっかり確認する必要があります。
専門知識がないまま賃貸借契約書を作成すると、無効になる可能性もゼロではありません。損をするような規定が含まれていないか、法律に違反していないかなど、確認すべき項目は多数あります。安心のためにも、不動産の賃貸借契約に詳しい弁護士に相談するなどの対応を行いましょう。
賃貸借契約書作成時の注意点
賃貸借契約書には数多くの事項を記載する必要がありますが、そのなかでもとくに注意したいのが以下の項目です。
賃借物
賃貸借の対象となる不動産について記載します。建物の名称や所在地に加え、マンションであれば具体的な部屋番号も記載する必要があります。さらに、使用する設備や付帯施設についても詳細に記述することが重要です。
契約期間
賃貸借契約の期間を明記します。とくに注意すべき点は、契約期間が1年未満の場合、「期間の定めのない契約」とみなされることです。これにより、契約の取り扱いが異なる場合があります。
賃料等
賃料を記載するのはもちろん、共益費や敷金、付属施設を利用する際の料金なども明記する必要があります。また、支払方法についても賃料等の項目に記載すると良いでしょう。
賃貸借契約は電子契約も可能!
賃貸借契約は、紙の契約書だけでなく、電子契約でも締結できます。ここでは、電子契約について知っておくべきポイントやメリットをご紹介します。
電子契約には借主の同意・承諾が必須
2022年5月18日に改正された宅地建物取引業法(宅建業法)により、賃貸取引での電子契約が可能になりました。
しかし、電子契約を行うには借主の同意が必要です。同意は、電子メール、Webページの回答フォームなどを通じて受け取ることができます。もし貸主が電子契約を希望しても、借主が同意しない場合は、従来通り紙の契約書を使用することになります。
国交省作成のマニュアルを活用する
国土交通省が発行した「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」では、電子契約の一般的な流れや守るべきポイントがわかりやすく解説されています。マニュアルの7ページには、フローが図表で説明されているので、ぜひ確認してみてください。
また、遵守すべき事項には、以下のような点が挙げられます。
- 宅建業者が利用する予定のソフトウェアなどについて対応できるか確認する
- 説明の相手への電磁的方法による提供に係る承諾のために意向の確認を行う
- 説明の相手からの承諾する旨の取得方法を決める(書面、電子メールなど)
- 電磁的方法による提供を承諾した説明の相手からの拒否する場合の取得方法を決める(書面、電子メールなど)
- 重要事項説明書等の電磁的方法による提供の要件を満たす
- 重要事項説明書等の電磁的方法による提供に係る宅地建物取引士の明示をする
- 依頼者への電磁的方法による提供に係る承諾のための意向の確認を行う など
これらのポイントをしっかり守ることで、電子契約がスムーズかつ法的に問題なく進められるようになります。
電子契約のメリット
電子契約を導入することで、契約手続きがスムーズに進み、印刷代や郵送費を節約できます。さらに、電子契約の内容はデジタルデータとして保存されるため、パソコンやサーバーにデータを保管することになります。その結果、紙の契約書を保管する必要がなくなる点はメリットといえるでしょう。
不動産取引の電子契約については以下の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
賃貸借契約書に記載する内容を理解して契約を進めよう
賃貸借契約書は、正確に理解した上で作成することが重要です。法律に従って必要な事項を明記することで、将来のトラブルを防ぐことができます。また、必要に応じて弁護士に相談することも検討しましょう。
賃貸借契約書をはじめとした賃貸業務をデジタル化したいと考えているのであれば、『いい生活賃貸クラウド One』の導入もご検討ください。『いい生活賃貸クラウド One』の導入により、賃貸契約の締結から引き渡しまでの契約業務を効率化し、時間を大幅に短縮できます。
また、重要事項の説明には、オンラインで行える『いい生活ビデオトーク』を利用するのもおすすめです。このサービスはアプリのインストールやアカウント作成が不要なため、利用しやすいでしょう。
さらに、いい生活の『電子契約』を利用すれば、賃貸借契約の締結をワンストップで行うことができます。これにより、手間を大幅に省くことが可能です。こうしたツールを活用することで、賃貸借契約に関する作業をスムーズに進めることができますので、ぜひ利用を検討してみてください。