賃貸物件を経営する場合、入居後に支払いを受ける費用として、家賃以外に共益費・管理費などがあります。共益費は賃貸物件の維持・管理を行うために必要な費用です。家賃に含まれる場合もあれば、家賃とは別に支払ってもらうケースもあります。
今回は、そんな共益費について詳しく解説していきます。共益費の意味や具体的な使い方から管理費との違い、共益費を設定する上での考え方なども解説しているので、気になる方はぜひ参考にしてください。
共益費とは?
共益費とは、冒頭でもご紹介したように、賃貸物件の維持・管理に必要な費用です。ここでは、共益費の詳しい意味から具体的な用途、管理費との違いについて解説します。
共益費の定義
不動産公正取引協議会連合会の「不動産の公正競争規約」では、共益費を「借家人が共同して使用または利用する設備や施設の運営および維持に関する費用」と定義しています。つまり、アパートやマンションの入居者が共同で使う共用スペースや設備の運営・維持のための費用です。
共益費の具体的な用途
共益費の使い道は物件によって異なりますが、共用部分の修繕・管理に使われることが一般的です。具体的な用途として、以下のようなものがあります。
- 共用部のメンテナンスや清掃にかかる費用
- 共用部の水道光熱費
- 消火器の点検費用
- ネット回線やケーブルテレビ回線の使用料
- 浄化槽やエレベーター、アンテナなどの保守点検費
- 植栽管理費用
- 管理人の人件費
- 管理会社の委託費
管理費との違い
「管理費」という言葉もありますが、不動産公正取引協議会連合会の「不動産の公正競争規約」では、「マンションの事務を処理し、設備その他共用部分の維持および管理をするために必要とされる費用」と定義されています。この中には、共用部分の公租公課が含まれ、修繕積立金は含まれません。
共益費と管理費は定義上異なるように見えますが、実際には明確な違いはないといえます。そのため、1つの物件で共益費と管理費の両方を徴収することはありません。
共益費の相場
共益費は物件ごとに金額が設定されており、設定金額に明確な基準があるわけではありません。ただし、あまりにも高額な金額に設定してしまうと、入居者が減ってしまうリスクもあります。一般的な賃貸物件の相場を参考に金額を決めるとよいでしょう。
一般的な共益費の相場「家賃の5~10%」
共益費の相場は家賃の5〜10%が一般的です。以下は家賃別の共益費の目安です。
家賃 | 共益費の相場 |
---|---|
5万円 | 2,500~5,000円 |
6万円 | 3,000~6,000円 |
7万円 | 3,500~7,000円 |
8万円 | 4,000~8,000円 |
9万円 | 4,500~9,000円 |
10万円 | 5,000~1万円 |
15万円 | 7,500~15,000円 |
20万円 | 1万~2万円 |
共益費は共用部分の維持管理費用として設定されるため、相場より高い物件は適切な管理が行われている可能性があります。ただし、相場はあくまで目安なので、物件に見合った金額を設定することが重要です。
構造・タイプ別に見る共益費の相場
物件の構造やタイプによっても共益費の相場は異なります。以下は「第12回(2024年版)全国賃貸住宅実態調査 報告書」から算出された共益費の相場です。
- 木造物件の共益費相場:3,021円
- 非木造物件の共益費相場:4,437円
非木造物件には鉄筋コンクリート造や重量鉄骨などが含まれ、木造物件は築年数が古くなると管理費が高くなりがちですが、非木造物件は逆に安くなる傾向があります。
また、単身向けとファミリー向けでも相場が異なります。
- 単身向け物件の共益費相場:9,488円
- ファミリー向け物件の共益費相場:17,676円
これらの金額には積立金も含まれているため、純粋な共益費はもう少し低くなることが考えられます。
参考:「第12回(2024年版)全国賃貸住宅実態調査 報告書」
共益費なしの物件もある
賃貸物件の中には共益費を設定していないものもあります。共益費なしの物件は、住み替えを検討している人々にとって魅力的に映るでしょう。例えば、家賃10万円のマンションと家賃9万円+共益費1万円のマンションを比較すると、後者の方がリーズナブルに見えるかもしれません。ただし、共益費がまったくかからないわけではなく、実際には家賃に含まれている場合があります。また、共益費を設定しない代わりに、初期費用や更新料を高めに設定しているケースもあります。
共益費の金額設定の考え方・決め方
所有する物件の共益費を設定する場合、どのような基準で設定すればよいかわからないという方も多いのではないでしょうか?ここからは、共益費の金額を設定する上での考え方や決め方について解説します。
共益費の金額設定の考え方
共益費を設定する際には、まず物件の維持・管理にかかる実際の費用を明確にすることが重要です。共益費の相場は家賃の5〜10%とされていますが、維持・管理費用がこれを上回る場合、共益費だけでは不足する可能性があります。
相場に合わせすぎて維持・管理が不十分になり、結果的に空室が増えるのは避けたい事態です。こうしたリスクも考慮し、適切な共益費を設定することが大切です。
物件ごとに共用設備の規模や内容は異なるため、掃除やメンテナンス、点検に必要な具体的な費用見積もりを元に検討するとよいでしょう。
オーナー負担額から共益費の金額を決める
実際の維持・管理費用を基に、戸数で按分して共益費を決定する方法もあります。例えば、アパートの年間維持・管理費が20万円で、総戸数が5戸の場合、1戸あたりの共益費は4万円(年額)です。
これは簡単に戸数で割る方法で簡単ですが、オーナーが初期にすべての共益費を負担する必要があります。そのため、更新料や礼金から一部を充当する、または維持費を節約する取り組みが必要となるでしょう。さらに、退去者が増えた場合には、1戸あたりの共益費負担が増えることにも注意が必要です。
共益費の内訳と費用の目安
共益費は主に物件の維持・管理に充てられますが、その内訳は細かく分けられます。それぞれの費目にどれくらいの費用がかかるのか、目安を知っておくことも大切です。
共用部の清掃費用
共用部の清掃は「日常清掃」と「定期清掃」に分けられます。日常清掃には掃き掃除や拭き掃除、ゴミ置き場の清掃が含まれます。一方、定期清掃は日常清掃では落とせない汚れを対象とし、機械を使った床清掃やワックスがけ、高圧洗浄機を使った壁の清掃のことです。
日常清掃の相場は1回につき数千〜数万円程度で、定期清掃は内容により1回につき数万〜数十万円です。清掃業者によって料金やサービス内容に違いがあるため、価格とサービス内容、さらにトラブル発生時の補償を確認しておきましょう。
共用部の電気代・水道代
共用部の電気代や水道代も共益費に含まれます。アパートの廊下やマンションのエントランスの照明、エレベーターの電気代、共用部に設置された水道の水道費も共益費で賄われます。
これらの費用は物件の規模や戸数によって異なりますが、月数千~数万円が相場です。共益費として設定する場合は、実際の費用を算出して含めるようにしましょう。
共用部の修繕費用
建物は経年劣化するため、定期的な修繕が必要です。共用部の修繕には屋根の補修、配管の交換、外壁の塗り直しなどがあります。
定期的な修繕は物件の価値を維持し、入居者の安全と快適性を確保します。分譲マンションでは共益費ではなく大規模修繕費として徴収されることも多いです。
修繕費用の相場は物件の構造や築年数に応じて変わります。
【RC造20戸(1LDK~2DK)の場合】
築年数 | 1戸あたり修繕費用の相場 |
---|---|
5~10年 | 約9万円 |
11~15年 | 約55万円 |
16~20年 | 約23万円 |
21~25年 | 約116万円 |
26~30年 | 約23万円 |
【RC造10戸(1K)の場合】
築年数 | 1戸あたり修繕費用の相場 |
---|---|
5~10年 | 約7万円 |
11~15年 | 約46万円 |
16~20年 | 約18万円 |
21~25年 | 約90万円 |
26~30年 | 約18万円 |
【木造10戸(1LDK~2DK)の場合】
築年数 | 1戸あたり修繕費用の相場 |
---|---|
5~10年 | 約9万円 |
11~15年 | 約64万円 |
16~20年 | 約23万円 |
21~25年 | 約98万円 |
26~30年 | 約23万円 |
【木造10戸(1K)の場合】
築年数 | 1戸あたり修繕費用の相場 |
---|---|
5~10年 | 約7万円 |
11~15年 | 約52万円 |
16~20年 | 約18万円 |
21~25年 | 約80万円 |
26~30年 | 約18万円 |
築11〜15年と21〜25年で修繕費用の相場が高くなるのは、この時期に屋根や外壁の塗装、給湯器や浴室設備の修理・交換が含まれるためです。また、築30年以降も修繕費はかかり、年々劣化が進むため、その分修繕費用も高額になる可能性があります。
共用部の保守点検・メンテナンス費用
分譲マンションでは法律で義務付けられた「法定点検」が必要です。法定点検の種類と周期は以下のとおりです。
法定点検の種類 | 周期 |
---|---|
特殊建築物定期調査 | 3年に1回 |
建築設備定期検査 | 1年に1回 |
昇降機定期検査 | 1年に1回 |
消防用設備点検 | 機器点検:6カ月に1回総合点検:1年に1回 |
簡易専用水道管理状況検査 | 1年以内に1回 |
専用水道定期水質検査 | 残留塩素検査:毎日水質検査:1カ月に1回受水槽清掃:1年に1回 |
自家用電気工作物定期点検 | 月次点検:1カ月に1回年次点検:1年に1回 |
また、法律で義務付けられていない任意点検もあります。例えば、機械式駐車場や自動ドア、宅配ボックスの点検は任意点検に該当します。
各点検・メンテナンスの費用は異なりますが、1回あたり数万円程度が一般的です。
植栽管理・害虫駆除の費用
庭や植栽スペースの管理や害虫駆除の費用も共益費から賄われます。植栽管理の相場はマンションによって異なりますが、高さ1~1.5m未満の生垣剪定にかかる費用は約1,000~1,500円/m、芝刈りは1平方メートルあたり約250~550円です。
害虫駆除の相場は駆除対象の害虫によって異なります。ハチは約8,000円~5万円、シロアリは1坪あたり約5,000円~1万円程度です。
ハチやムカデ、毛虫などの駆除はプロの駆除業者に依頼することをおすすめします。
ネット回線の使用料
賃貸物件では、インターネット回線を無料で提供するところもありますが、実際には共益費に含まれています。オーナーが一括契約するため、個人契約よりも安く抑えられ、共益費への上乗せ分としては約2,000円程度が相場です。
共益費に消費税はかからない
入居者に共益費を請求するとき、消費税はかかるのでしょうか?結論としては、共益費は非課税です。
共益費は共用部分の維持費用を入居者が負担するもので、名称が「共益費」でも「管理費」でも、非課税に区分されると国税庁は見解を示しています。ただし、事務所やオフィスの場合は共益費も課税対象となります。
また、家賃も同様に消費税の課税対象ではありません。ただし、賃貸期間が1カ月未満の場合や、民泊など旅館業に該当する場合は消費税が課税されます。
家賃と共益費を分けることで得られるオーナーのメリット
共益費は家賃に含まれている場合もあれば、分けられている場合もあります。家賃と共益費を分けている場合、オーナーにとってどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、家賃と共益費を分けるメリットを解説します。
家賃がお得に見える
家賃と共益費を分けることで、物件を探している人にとって家賃が安く感じられます。実際に支払う金額は同じですが、共益費を別にすることで家賃が安く見えるため、物件の魅力が増します。
入居時の初期費用が安くなり、空室対策につながる
入居時の敷金や礼金、仲介手数料は家賃を基準に計算されます。そのため、家賃と共益費を分けることで初期費用の負担を軽減できます。具体的には以下のとおりです。
例えば、敷金・礼金・仲介手数料がそれぞれ1カ月分の場合、家賃7万円+共益費4,000円とすると、初期費用は7万円×3=21万円です。一方で、家賃7万4,000円に共益費を含めると、初期費用は7万4,000円×3=22万2,000円となります。
このように、家賃を安く見せることで初期費用が少なくなり、入居者にとって選びやすい物件となります。また、競合物件との差別化にもつながり、空室対策としても有効です。
家賃と共益費を分ける際の注意点
家賃と共益費を分けることには、いくつかのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットも存在します。例えば、初期費用として受け取れる収入が減ってしまう可能性があることです。また、所有する物件や入居する人数によっては、さらに収入が減ることも考えられます。
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共益費を設定する際には、物件の管理費用がどれくらいかかっているかを正確に把握することが重要です。そのためにも、クラウドツールを活用して物件の維持・管理費用を一元管理することをおすすめします。
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共益費を計算するには各内訳の相場を把握しよう
今回は、共益費についてご紹介しました。賃貸物件の維持・管理にかかる費用を共益費で賄いますが、入居者が負担することになるので適正な価格を算出することが大切です。共益費を計算する際には、各内訳の相場を把握しつつ、実際にどれくらいの費用がかかるのかをシミュレーションしておくと適正な価格を算出しやすくなるでしょう。
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