火災や自然災害の被害に遭った際、その損害を補償してくれるのが火災保険です。賃貸アパート・マンションの入居条件では、火災保険への加入を必須としていることがあります。入居者だけではなく、賃貸物件の所有者であるオーナーも加入が必要です。
そこで今回は、賃貸物件のオーナーと入居者が加入する火災保険の違いや費用相場、選び方について解説します。火災保険の内容や選び方を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
賃貸物件のオーナーと入居者で加入すべき火災保険に違いはある?
賃貸物件の場合、入居者だけではなく、物件の所有者であるオーナーも火災保険に加入することになります。しかし、オーナーと入居者では、加入する保険が異なるので注意が必要です。
オーナーの場合、建物に対する補償を受けられる火災保険に加えて、必要に応じて特約にも加入します。建物に対する損害が入居者の過失ではない場合、オーナーが加入する火災保険から補償を受ける必要があるからです。
一方、入居者が加入するのは、自身の家財が補償される家財保険、借家人賠償責任保険などです。また、日常生活のトラブルやオーナーへの賠償責任の備えとして特約に加入するケースもあります。
入居者に必要な火災保険の補償内容
賃貸物件の入居者が火災保険に加入するにあたって、補償内容を理解しておく必要があります。ここでは、家財保険・借家人賠償責任保険・個人賠償責任補償特約の3つの補償内容について見ていきましょう。
家財保険
火災や落雷、爆裂・爆発といった事象で入居者が所有する家財に損害が生じた場合、保険金が支給されます。火災や落雷、爆裂・爆発による損害への対応は、家財保険の基本的な補償範囲です。
補償内容は保険会社ごとにさまざまで、風災・雹災・雪災・水災・水濡れなどに加えて、盗難・建物外部からの物体の飛来・衝突などの損害も補償するプランに加入することも可能です。住んでいる賃貸物件の環境や備えたいリスクに合わせてプランを選択できます。
借家人賠償責任保険
入居者の過失によって借りている部屋に損害が生じた場合、損害賠償責任が生じます。主に火災や破裂・爆発、給排水設備からの水漏れなどが該当し、高額な原状回復費用が発生することが一般的です。
その際、借家人賠償責任保険に加入していると、保険金を原状回復費や損害賠償金に充てることができます。
個人賠償責任補償特約
個人賠償責任補償特約も、入居者に損害賠償責任が生じた際に利用できる補償です。上述した借家人賠償責任保険の場合、賃貸物件を所有するオーナーに対する賠償事故の補償が受けられますが、それ以外の日常生活における賠償事故には適用されません。
そのため、日常生活におけるさまざまなトラブルが補償の対象となる個人賠償責任補償特約は有効なオプションといえるでしょう。洗濯機のホースが外れたことによる水漏れで、下の階の入居者から損害賠償金を請求された場合なども対象になります。他にも、自転車の追突事故や愛犬の散歩中に他人をケガさせてしまったなど、住居外のさまざまなアクシデントも補償の対象となります。
賃貸物件のオーナーが最低限加入しておきたい火災保険の特約
オーナーが加入する火災保険は建物の損害に対する補償となっているため、より多くのリスクに備えるためには特約をつけておくと安心です。最低限加入しておきたい特約には、建物管理賠償責任特約(施設賠償責任特約)・家賃収入特約(家賃補償特約)・家主費用特約の3つがありますので、その詳しい内容をご紹介します。
建物管理賠償責任特約(施設賠償責任特約)
建物の管理不備や構造上の欠陥などによる偶然の事故で、他者がケガをしたり、ものが壊れたりしたことにより損害賠償責任がオーナーに生じた場合に適用される特約です。
賠償金の請求は入居者からとは限りません。入居者の知人や友人、宅配業者や通りがかりの通行人などさまざまです。これらについても特約でカバーできます。
また、損賠賠償に関する裁判にかかった費用、損害拡大を防ぐために使われた費用や事故発生時の応急措置などにかかる費用も補償対象です。ただし、細かい補償内容は保険会社ごとに異なるので確認をしておきましょう。築年数が経過したマンション・アパートにはとくにおすすめの特約です。
家賃収入特約(家賃補償特約)
火災や自然災害によって建物が損傷したとき、その状態によってはしばらくの間、賃借できなくなります。長期にわたって賃借できないことによって家賃収入が減少した場合、その補償を受けられるのが家賃収入特約です。
この特約は、賃貸物件を取得する際に使ったローンの返済や管理費用の支払いなどが滞るリスクも回避することに役立ちます。ただし、もともと賃貸物件の空き部屋が5割を超えていると特約を付帯できないので注意が必要です。
家主費用特約
賃貸住宅内で死亡事故が起きた際、その原状回復や事故対応にかかった費用が補償される特約です。他にも新しい入居者が入ってくるまでに長期間の空室が生じた、死亡事故が原因で収入が減ったといった場合も家賃補償を受けることができます。
物件内で死亡事故が発生する原因は多岐にわたりますが、入居者における高齢者の割合が高くなっている昨今、孤独死が増加する傾向にあります。そのため、家主費用特約の重要度はさらに高まっているといえるでしょう。
賃貸物件のオーナーと入居者の火災保険料の相場の違い
賃貸物件のオーナーと入居者では、火災保険の保険料の相場にも違いがあります。年間の保険料の相場は以下のとおりです。
賃貸物件のオーナー | 50,000~150,000円 |
入居者 | 7,000~30,000円 |
オーナーの場合、年間50,000~150,000円が相場となりますが、特約を付帯した場合は850,000~950,000円程度が相場となります。一方、入居者の相場は7,000円〜30,000円が相場となっており、オーナーと比べて保険料が安いことが一般的です。
実際の保険料は加入する保険会社や物件の構造、補償範囲などによって変わります。補償内容を充実させると保険料は高くなっていくでしょう。
火災保険の保険料を決める要素
ここでは、火災保険の保険料を決める要素について見ていきます。
建物や家財の評価
火災保険は、建物と家財が補償の対象となるため、建物や家財の評価額が保険料を構成する要素といえます。
オーナーの場合、火災保険の補償対象は建物となるので、建物の評価額が保険料に影響します。建物の評価額が高いと補償金額も大きくなり、保険料も上がります。建物の評価額は、以下の2つの方法で算出することが可能です。
新築費単価法 | 1平方メートルあたりの単価・延床面積・専有面積から算出する方法 |
年次別指数法 | 新築時の建築費用に物価変動などの要素を反映させて算出する方法 |
賃貸マンションやアパートは新築費単価法、戸建ての賃貸物件は2つのうちどちらかを用いて保険会社が評価額を提示します。
入居者の補償対象は家財となるため、家財の評価額が保険料に影響を与えます。家財の評価は、世帯主の年齢や家族構成に基づき、保険会社が算出します。
所在地
賃貸物件の所在地も保険料に影響を与える要素です。台風や雪災などの自然災害が起きやすいエリアは損害の発生率が高くなるため、オーナー・入居者ともに保険料が高くなる傾向にあります。
また、住宅が密集している地域も災害が発生した際に被害が拡大しやすいため、同様の傾向が見られます。
建物の構造
賃貸物件の構造は、木造や鉄骨造、コンクリート造などがあります。火災保険では、構造級別と呼ばれる区分があり、その区分によって入居者とオーナーの保険料が変動します。
住宅と店舗併用住宅の構造級別は、それぞれ以下のとおりです。
構造級別 | 建物の種類例 | |
住宅物件 | 店舗併用住宅 | |
M構造 | - | 耐火建築物に該当するコンクリート造の共同住宅など |
T構造 | 1級 | 耐火建築物に該当するコンクリート造の戸建住宅など |
2級 | 準耐火建築物に該当する鉄骨造の戸建住宅、省令準耐火建物に対応した木造住宅など | |
H構造 | 3級 | 木造の戸建てや共同住宅など |
構造によって、災害の強さに違いがあります。木造の戸建てや共同住宅が該当するH構造や3級の建物は災害の被害を受けやすいため、保険料は高くなりがちです。反対に、M構造や1級の建物は災害に強い構造であるため、保険料が安い傾向にあります。
築年数
築年数は、主にオーナーの保険料に影響を与えます。築年数が経過した物件ほど災害による被害が大きくなりやすいので、保険料は高くなることが一般的です。一方で、築年数が浅い物件は損害のリスクが低いと判断され、とくに10年未満の物件は築浅割引が適用されて保険料が減額されるといったこともあります。適用される保険料率は、以下の築年帯によって変動します。
- 築5年未満
- 築10年未満
- 築15年未満
- 築20年未満
- 築25年未満
- 築25年以上
補償の対象
火災保険の補償対象は、入居者であれば「家財のみ」か「家財+特約」、オーナーであれば「建物のみ」か「建物+特約」となります。家財のみ、建物のみの補償プランであれば、シンプルな補償内容なので最小限の保険料となるでしょう。
しかし、基本の補償プランには付帯されない補償や特約をつけるとなると、補償内容が手厚くなる分、保険料が高くなります。補償内容が充実していれば幅広いリスクに備えることができますが、補償内容の要不要を確認した上で、どの程度の備えが必要なのかを見極めることが大切です。
また、地震や津波による災害は火災保険では補償されないため、同時に地震保険を検討しておく必要もあります。地震保険の付帯によっても、入居者やオーナーの保険料は変わってきます。
入居者の火災保険の選び方
賃貸物件のオーナーと入居者では、火災保険の補償内容が異なるため、加入する保険選びのポイントも変わってきます。まずは、入居者が火災保険に入る際の選び方を見ていきましょう。
建物の構造級別を確認する
上で述べたとおり、建物の構造級別によって火災保険料は変わってきます。そのため、入居する建物の主要構造部(建物の柱)にどのような素材を用いているのかを確認しましょう。
コンクリート造のような燃えにくい構造は災害に強く、保険料は安い傾向にあります。また、建物の構造級別は、賃貸物件が長屋を除いた集合住宅なのか、戸建住宅なのかによっても変わってくるので注意しましょう。
例えば、コンクリート造のマンション・アパートであればM構造に該当するので、他の構造の物件よりも保険料は安く抑えられます。耐火構造になっていない木造の集合住宅や戸建住宅であれば、他の構造よりも保険料は高くなることを想定しておく必要があります。
補償の範囲を選択する
構造級別ごとの保険料の次は、必要な補償範囲を検討していきましょう。一般的な補償範囲は以下のとおりです。
- 失火やもらい火、放火などによる火災
- 落雷
- ガス漏れなどによる破裂・爆発
- 台風や暴風雨、雪による風災・雹災・雪災
- 台風や豪雨による水災
- 給排水設備の事故や他の部屋から発生した漏水などによる水濡れ
- 自動車の飛び込みなど外部からの物体の飛来・衝突
- 集団による暴力・破損行為
- 空き巣などによる盗取や損傷・汚損
- 誤って壁を破損するなど、偶然に起きた事故による破損・汚損
建物の状況や備えておきたいリスクによって、必要な補償範囲は変わってきます。建物が古く給排設備の破損や不具合が起きるリスクがあれば、水漏れ補償などを検討しておくとよいでしょう
補償範囲の充実度は保険料にも関わってくるので、コストのバランスにも考慮しながら補償範囲を決めていくことが大切です。
家財に対する補償額を決める
家財に対する補償額は、保険会社が提示する簡易評価基準を参考に決めていきましょう。簡易評価基準は、建物の専有面積や家族構成によって算出されるもので、大まかな補償額の目安を把握するのに活用できます。また、提示される基準は保険会社ごとに異なり、簡易評価基準の範囲でしか補償額を決められないケースもあるので注意してください。
家財保険の場合、保険料の上限を定めていない保険会社が多いため、保険料の予算に合わせて補償額を決めることも可能です。
保険期間を決める
火災保険の保険期間には、1年契約があります。1年契約の場合、都度更新して保険料を支払うことになります。一方、長期契約であれば5年など長いスパンで一括契約することが可能です。 以前は最長10年間契約が可能でしたが、災害による被害が増加していることを受け、2022年10月から最長5年に変更されました。
1年契約と長期契約を比較すると、長期契約の方がトータルの保険料は安くなる傾向にあります。また、月払いと一括払いを比較すると、一括払いの方がお得なことが一般的です。
ただし、ベストな契約期間や支払方法は家庭の状況によって異なってくるはずです。1度にどのくらいの保険料を支払えるのかを考慮して、保険期間や支払方法を選択するようにしましょう。
地震保険への加入も検討
地震や噴火による津波や火災などの損害は、火災保険では補償されません。これらの補償も受けたい場合は、地震保険に加入する必要があります。
地震保険は被災者の生活を安定させることを目的にしているので、入居者の家財に対する損害のすべてが補償されるわけではありません。しかし、加入しておけば、生活を建て直すための資金を得ることができます。
地震による被害を大きく受けやすい地域(地盤が不安定、海や川が近いなど)の賃貸物件に入居している人は、加入しておくと安心できるでしょう。
賃貸物件のオーナーが火災保険を選ぶときの注意点
次に、賃貸物件のオーナーが火災保険を選ぶときの注意点をご紹介します。
保険料を試算する段階で構造級別の確認が必要
オーナーも入居者と同じく、賃貸物件の構造級別の確認が必要です。保険料に関わる要素であるため、保険料を試算する段階で確認するようにしましょう。
建物の構造級別は、耐火構造などの建物の性能などで区分されます。所有する賃貸物件の構造・性能は、不動産取引の書類や建築確認申請書、設計仕様書などから確認することが可能です。
保険料には時価基準と新価基準の2つがある
オーナーの保険料は、建物の評価額にも影響を与えます。評価額を判断する基準には、時価基準と新価基準の2つがあります。各基準の意味は以下のとおりです。
時価基準 | 経年による減価や建物の使用による消耗などを踏まえた現在の価値 |
新価基準 | 同等の物件を新しく建築・購入する際にかかる金額 |
近年の火災保険では新価基準が一般的で、時価基準を採用しているものはあまり多くありません。なお、時価基準の場合、経年減価額が反映される分、新価基準の保険と比べて保険金が少なくなってしまう可能性があるため注意が必要です。
保険料の安さだけで選んではいけない
賃貸物件の経営にはさまざまなコストが発生するので、保険料はできるだけ抑えたいところです。しかし、保険料の安さばかりに重きをおいて火災保険を選んでしまうと後悔することにもなりかねません。
というのも、納める保険料が少ないと補償範囲が狭まり、いざ損害を受けたときに十分な補償を受けられない可能性があるからです。その場合、自己負担額が大きくなり、かえって損失を増やすことにもなりかねません。
補償範囲と保険料のバランスに考慮して、所有する物件に合った火災保険を選ぶようにしましょう。
加入する火災保険は総合的に判断して決めよう
今回は、賃貸物件のオーナーや入居者向けに火災保険についてご紹介しました。オーナーにとって賃貸物件は収入を生み出すための大切な資産であるため、火災や自然災害による損害のリスクに備えて火災保険の加入を検討することは大切です。
また、家財の損傷や盗難などのリスクに備えて、入居者も火災保険に入っておくことが重要といえるでしょう。火災保険の加入が入居の条件となっている物件もあるので、事前の確認は必要となります。
保険料は、保険会社やプランによって異なります。保険料を決める要素を把握し、補償範囲やコストなどを総合的に判断した上で、加入する保険会社を決めていくことが好ましいといえそうです。