不動産を所有していれば、不動産登記が必要になります。不動産登記は、不動産を売買する上で必要な手続きであるため、不動産業界で起業するにあたってしっかりと理解しておくことが大切です。
そこで今回は、不動産登記の基本や手続きの流れ、必要な書類、費用の相場、注意点などを解説します。不動産登記について理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
不動産における「登記」とは?
そもそも不動産登記とは何か、どのような目的で行うものなのでしょうか。まずは基本知識として、登記の意味や目的について解説します。
登記の意味
登記は、権利関係を社会的に明らかにするために設けられている制度です。不動産登記以外にも、法人登記・商業登記・船舶登記など多数の登記制度があります。
不動産登記は、簡単に言うと土地・建物の所有者を明確にするための手続きです。法務局で登記を行うことによって、「どこにあるどんな不動産なのか」「誰が持ち主なのか」「どの金融機関でいくら借りているのか」などの情報が帳簿に記録されます。これらの情報が載った帳簿は一般公開されているため、手数料の支払いが発生しますが、誰でも閲覧や登記簿謄本の交付を受けることが可能です。
登記の目的
不動産登記の最も根本的な目的は、不動産に関する権利関係を明確にし、公示することにあります。これにより、土地や建物が誰のものであるか(所有権)、どのような権利が設定されているか(抵当権や地役権など)、そしてその権利の優先順位がはっきりとします。
不動産取引の際、必要な情報を個人ですべて集めようとすれば時間がかかり、集めた情報が正しいかどうかを確認することは難しいでしょう。そこで、住所や面積など、対象の不動産に対するさまざまな情報がまとめて記載されている、不動産登記簿謄本を参照すれば正確な情報を短時間で取得できます。
不動産登記の種類
不動産登記には、主に4つの種類があります。各登記の内容は以下のとおりです。
表題登記
まだ登記されていない土地や建物を新たに登録するために行うのが、表題登記です。2004年6月の不動産登記法改正以前は「表示登記」と呼ばれていました。
表題登記は、権利関係の登記をすることを前提に、不動産の物理的状況を登録するものです。不動産を取得した人は、取得から1カ月以内に登記申請が必要となります。
表題登記は、主に新築や未登記の建物を購入した際に申請します。土地家屋調査士を通じて申請を行うのが一般的です。
所有権保存登記
所有権保存登記は、権利部の登記がない不動産に対して、最初に所有者として甲区欄に名前を記すことです。建物を新たに建築するなど、これまでに所有権の登記がない場合に行います。なお、権利部とは、所有権や抵当権などといった不動産の権利関係に関する事項を記録する箇所を指します。
所有権保存登記が完了すると、所有する不動産の所有権を主張することが可能となります。土地の場合、表題登記と同様にすでに登記されているケースが多いため、登記が必要になるのは土地が開拓されたときなどに限定されます。
所有権移転登記
所有権移転登記は、不動産の所有権が移転される際に行うものです。不動産の相続や贈与を受けたとき、中古物件を購入する場合に所有権移転登記を行うことで、新しい持ち主に正式に所有権が移ることになります。
この登記によって所有権が自身に移転したことが公示されるため、登記を行わないと所有権を主張できないということになります。そうなると、住宅ローンを組むことや不動産売却ができなくなる可能性があるので注意しましょう。また、不動産に対する固定資産税は登記簿上の所有者に課せられるため、登記をしないと売主に税金が課せられることになり、トラブルにつながる可能性があります。
抵当権設定登記
抵当権設定登記は、不動産につけられる抵当権という権利を明らかにするために行うものです。抵当権とは、住宅ローンを利用して不動産を購入する際、金融機関が担保として不動産につける権利を指します。
住宅ローンの返済が滞った場合、金融機関は裁判所に申し立てて担保となる不動産を競売にかけることができます。その場合、競売の売却代金から借入金が弁済されます。この権利関係を明確するために抵当権設定登記が必要になります。
登記のタイミングは、住宅ローンの借入実行日と同日です。個人で申請することもできますが、司法書士に依頼して手続きするケースが一般的です。
その他の不動産登記
不動産に関する登記には、これらのほかにも以下のものがあります。
土地分筆登記 | 土地を複数に分割する際に行う登記 |
土地合筆登記 | 複数の土地を1つにする際に行う登記。 |
土地の地目変更登記 | 土地の地目を変更する際に行う登記 |
住所変更登記 | 所有者の住所が変わる場合に行う登記 |
建物滅失登記 | 建物を取り壊す際に行う登記 |
抵当権抹消登記 | 住宅ローンなどの借入を完済した際に行う登記 |
不動産の場合、土地や建物、所有者になんらかの変更点があれば、その都度登記が発生します。また、抵当権に関しては、借入を完済しても抵当権設定登記が自動的に消滅しないので、所有者自身で抵当権抹消登記をしなければなりません。抵当権がついたままだと、買主から「金融機関から競売がかけられる可能性がある不動産」と見なされてしまい、売却が難しくなる可能性があるので注意が必要です。
不動産登記の内容と読み方
不動産登記簿謄本を取得すれば、対象不動産の登記記録をすべて見ることができます。登記簿謄本の項目は大きく4つに分かれているので、その内容と読み方をご紹介します。
表題部
表題部は登記記録の最上部にあり、土地・建物の所在や大きさ、用途など不動産の概要が掲載されています。
土地登記 | 土地の所在・番地・地目・地積・登記原因となど |
建物登記 | 建物の所在・番地・家屋番号・種類・構造・床面積・登記原因と日付など |
マンションなどの区分所有建物は、土地と建物を分けて売却できないため、登記簿上は土地と建物が一緒に記録されます。そのため、表題部は敷地・建物全体(一棟の建物の表示と敷地権の目的である土地の表示)と専有部分(専有部分の建物の表示と敷地権の表示)に分けて登記記録が記載されます。
敷地・建物全体 | 一棟の建物の表示 | 建物の所在・名称・構造・床面積・取得原因とその日付など |
敷地権の目的である土地の表示 | 所在・地目・地積・登記の日付など | |
専有部分 | 専有部分の建物の表示 | 家屋番号・建物の名称・構造・床面積、登記原因とその日付など |
敷地権の表示 | 敷地権の種類・敷地権の割合・登記原因とその日付など |
権利部(甲区)
権利部は、不動産の権利関係が表示される項目で、甲区と乙区の2つに分かれています。甲区は、不動産の所有権に関する情報が表示される項目です。
具体的に表示される情報は、以下のとおりです。
- 所有者の氏名
- 所有者の住所
- 登記の目的
- 取得年月日
- 登記の原因とその日時
所有者の氏名・住所などが時系列に沿って記録されているため、いつ・誰が・どのような理由で所有権を取得したのかがわかるようになっています。
権利部(乙区)
権利部の乙区は、所有権以外の権利情報が記録される項目です。この項目を見ることで、いつ・どのような理由でそれらの権利が設定されたのかを把握できます。
表示される権利情報は以下のとおりです。
- 抵当権
- 地上権
- 永小作権
- 地役権
- 先取特権
- 質権
- 賃借権
- 配偶者居住権
- 採石権
甲区と同じく、時系列で登記の目的や取得日時、権利者の氏名・住所、登記の原因とその日時などが表示されます。住宅ローンを借入して抵当権設定登記を行った場合は、登記の目的に抵当権設定と表示され、抵当権者(金融機関)・債務者(借入した人)などの情報や補償額・利息などが表示されます。
共同担保目録
共同担保目録は、1つの債権の担保として複数の不動産に抵当権が設定されている場合に、その情報をまとめて記録する項目です。例えば、住宅ローンを利用して住宅を購入する場合、土地と建物の両方に抵当権を設定することがあります。
その際、担保となった土地と建物の所在や家屋番号が「担保の目的である権利の表示」に記されます。また、権利の表示の横には抵当順位を示す「順位番号」があり、この番号が若い方から優先的に弁済を受けることができます
不動産登記に必要な書類&費用
不動産登記をするにあたって、書類や費用の準備が必要となります。具体的にどのような書類が必要になり、費用はどのくらいかかるのかをチェックしておきましょう。
登記で必要になる書類
不動産登記をする際に、登記内容に関わらず共通で必要になる書類は以下のとおりです。
【共通で必要になる書類】
登記申請書 | 登記の種類によって記入内容が異なります。法務局の窓口やホームページからダウンロードして入手することが可能です。 |
本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなどの本人を証明できる公的な書類が必要です。 |
委任状 | 自身で手続きを行う場合には不要ですが、司法書士や土地家屋調査士に申請を依頼する場合に必要です。 |
このほかに、不動産登記の種類によって必要な書類が変わってきます。登記手続きを行う際は、どのような書類が必要になるか、事前にしっかりと確認するようにしましょう。
不動産登記にかかる費用の相場
不動産登記では、登録免許税と必要書類の取得に費用がかかります。また、司法書士・土地家屋調査士に手続きを依頼する場合、専門家に支払う報酬も必要です。
登録免許税とは、登記の際に納める税金です。不動産の課税標準額に税率をかけることで算出されます。登記の種類や不動産の種類によって税率は異なりますが、通常は0.2%または0.4%です。軽減税率が適用される可能性があるので事前に確認しておきましょう。
戸籍謄本や住民票などの書類の取得にかかる費用は、取得する書類や自治体によって異なりますが、相場は数千円程度です。専門家に支払う報酬は、依頼先や登記する不動産の数、案件の複雑さなどで費用は変動しますが、1~15万円が相場になります。
不動産登記における手続きの流れ
不動産登記には手順があるので、大まかに手続きの流れをご紹介します。
1.必要書類を準備する
まずは、必要書類を準備するところから始めます。上で述べたとおり、登記内容によって必要な書類が異なるため、チェックした上で漏れなく準備してください。
登記申請書は法務局のホームページから様式をダウンロードすることが可能です。登記申請書は手書きでも、パソコンで直接入力して印刷しても構いません。手書きの際は、必ず黒インクのボールペンで記入するようにしてください。
2.法務局に提出する
登記申請書を記入し、必要な書類が揃ったら法務局の窓口に提出します。窓口以外にも郵送やオンラインでの提出も可能です。
郵送する際は、書類が入る大きさの封筒に入れて、書留郵便で送ってください。また、封筒に「不動産登記申請書在中」と記載しておきましょう。登記完了時に返送してもらいたい書類がある場合や、登記完了書を受け取りたい場合は宛名を記した返信用封筒と書留郵便のための切手の同封が必要です。
3.申請内容の確認・審査が行われる
法務局に書類を提出すると、申請内容に間違いがないか、書類は揃っているかなどがチェックされます。書類審査だけではなく、必要に応じて登記官が現地に赴き、調査も行われます。
不動産登記の審査は厳格なため、登記完了まで時間を要する可能性があります。申請内容によっては、数日から数週間程度かかりますので、留意しましょう。
4.登記識別情報通知書・登記完了証が発行される
申請内容に問題がなく、審査を通過できれば登記は完了です。登記が完了すると申請人の元に登記完了書が届きます。また、不動産の売買による所有権の移転によって新たに権利を得た人には、登記識別情報が届きます。
登記識別情報は、12桁の数字と記号で構成されるパスワードで、不動産の登記名義人本人であることを公的に証明するものです。不動産の売却などで必要になる書類で、登記完了書よりも重要度の高い書類であるため、厳重な保管が求められます。
不動産登記を行う場合の注意点
不動産登記を行うにあたっての注意点は以下のとおりです。
表題登記を怠ると罰則を科せられる
権利部の登記は任意であるものの、表題登記に関しては不動産登記法47条1項で義務化されています。表題登記をしていない状態で不動産を所有しており、その事実が発覚した場合、10万円以下の過料を科せられる可能性があるので注意が必要です。
表題登記がされていないと、所有権移転登記などができず、不動産の売却が困難になります。また、第三者に所有権を主張することもできなくなります。表題登記は不動産を所有してから1カ月以内という期限もあるので、期限内に必ず登記するようにしましょう。
書類は厳重に保管する
不動産登記が完了したら、受け取った登記識別情報は厳重に保管してください。登記識別情報は、登記名義人のみに送られる書類です。基本的に再発行はできません。
もしも紛失したり、盗難に遭ったりした場合は、法務局に対して速やかに失効申出を届出ましょう。ただし、失効申出を行っても新しい登記識別情報が発行されることはありません。
そのため、売却や融資のために不動産を担保に入れたいといった場合は、司法書士によって本人確認情報を作成してもらい、公証人に認証してもらうといった手続きが生じます。これらの手続きに8~15万円程度の費用がかかります。
不動産登記は司法書士に依頼した方がスムーズに申請できる
登記書類に記入ミスや不備があった場合、修正ややり直しを求められる可能性があります。スムーズに手間なく申請を進めるのであれば、司法書士に依頼するのがおすすめです。
司法書士は行政手続きに関するプロのため、正確に登記書類を作成できます。報酬の支払いが必要になるものの、書類の準備や作成といった慣れない作業に時間や労力を費やす必要がなくなります。
不動産を買う・売る・建てる際は登記が必要!
不動産登記は、対象の不動産の所有者であることを公的に証明するための手続きになります。不動産の購入や売却などさまざまなシーンで登記が必要になります。
そのため、不動産業界で起業・開業するのであれば、不動産登記の重要性を十二分に理解しておくことが重要です。というのも、不動産登記は専門性が高く、法的な知識も求められるため、理解が追いついていないという方が少なくありません。未登記の不動産の取引はトラブルを招く恐れもありますので、不動産登記について丁寧に説明し、理解していただくことができれば、お客様の満足度向上にもつなげられるでしょう。